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夏目漱石、客の急増に閉口して週一回の「面会日」を定める。【日めくり漱石/10月11日】

3 夏目漱石 2

今から110 年前の今日、すなわち明治39年(1906)10月11日、39歳の漱石は午後3時から初めての「木曜会」を開いた。

漱石はこの前年から『吾輩は猫である』や『倫敦塔』『坊っちゃん』などを立て続けに発表し、世間の注目を集めていたが、その名前が知られるとともに、ひっきりなしに人が訪れてくるようになった。

たとえば、同じ年の8月28日付、門弟の小宮豊隆に宛てた書簡の中にも、こんな記述が読める。

《夏だから客はないと思いの外、毎日々々繁盛で楽々昼寝も出来ず閉口しているうち、八月も御仕舞になって大に驚ろいて弱っている》

「楽々昼寝」は冗談としても、教職と執筆の二足の草鞋で、そうでなくても多忙をきわめているのに、日々来客では、とても落ち着いて仕事はできないのである。そこで、面会日を週に1度だけ、木曜日と定めて対応しようというのが、この「木曜会」なのだった。発案者は、漱石の門下生で、のちに児童向けの雑誌『赤い鳥』を創刊したことで知られる鈴木三重吉だったらしい。

漱石は赤い唐紙に、「面会日は木曜午後三時から。その他の日は面会謝絶とす」と書いて玄関の格子に張り出す一方で、門弟たちや友人にこんなふうな手紙を書き送った。

《小生今度から木曜日の午後三時からを面会日と定め候故遊びに御出被下度(おいでくだされたく)候》

《小生来客に食傷して木曜の午後三時からを面会日と定め候。妙な連中が落ち合う事と存候。ちと景気を見に御出被下度(おいでくだされたく)候》

手紙で伝えるのに、「木曜日以外は来るな」という言い方でなく「木曜日に決めたからその日に遊びにおいで」と勧めているのが、さすが気遣いの細やかな漱石先生である。「妙な連中が落ち合う」から「景気を見においで」という言い回しにも、漱石自身が木曜会のスタートを楽しみにしている様子があらわれている。

初期の木曜会では、亡き友・正岡子規がはじめた「山会」(文章会)さながらに、出席者が持ち寄った自作の原稿を朗読し、批評しあうことが多かった。一方で、自由勝手な議論なども交錯する。そんなとき漱石は、自身が前面に出ることなく、静かに微笑を宿しながら聞き役に回ることが多かった。

明治39年(1906)10月12日付の高浜虚子宛て書簡でも、自分のことを、《小生元来のんき屋にて大勢寄って勝手な熱を吹いてるのを聞くのが大好物です》とも語っている漱石先生なのである。

とはいえ、時折その口から発する言葉は鋭く的を射て、含蓄に富んでいたことは、言うまでもない。

■今日の漱石「心の言葉」
一言も時としては千金の価値あり(『愚見数則』より)

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夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

Web版「夏目漱石デジタル文学館
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館。同館のサイトに特設されている「Web版 夏目漱石デジタル文学館」では、漱石自筆の原稿や手紙、遺愛品、写真など漱石にまつわる貴重な資料画像を解説付きで公開しています。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『こぼれ落ちた一球 桑田真澄、明日へのダイビング』(日本テレビ)『石橋を叩いて豹変せよ 川上哲治V9巨人軍は生きている』(NHK出版)など多数。最新刊に、『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)がある。

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