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夏目漱石、寺田寅彦から欧州土産をもらって大いに喜ぶ。【日めくり漱石/6月22日】

3 夏目漱石 2

今から105 年前の今日、すなわち明治44年(1911)6月22日、44歳の漱石は久しぶりの嬉しい訪問客を迎えていた。ヨーロッパ留学から帰国したばかりの寺田寅彦(てらだ・とらひこ)がやってきていたのである。

2年ぶりの師弟の対面だった。寅彦は、漱石のモミアゲにだいぶ白いものが目立ったきたのを感じていた。

師弟の間で会話がはずむ。寅彦は欧州からも盛んに漱石に手紙を書き送り、漱石も返書をしたためていたが、直接顔を合わせると、改めて話したいことも多いのである。

寅彦は、漱石をはじめとする夏目家のひとりひとりに土産を持参していた。

漱石夫人の鏡子にはブローチ、4人の娘たちには綺麗なリボン、長男の純一にはミュージカルボックス(オルゴール)、そして漱石には金のリンクス(カフスボタン)だった。嬉しい心遣いだった。漱石はこのリンクスをフロックコート用のワイシャツの袖口に付け、生涯、愛用することになる。

画家の津田青楓(つだ・せいふう)が、漱石に仕事に関する相談を持ちかけてきたのも、この日だった。京都出身の青楓は3年間のフランス留学を経て、少し前に上京したところ。パリにいた頃から漱石作品に親しんでいて、帰国後に上京。ツテをたどって漱石の面識を得、朝日新聞に掲載する挿絵の仕事などを紹介してもらえないかと、依頼したのである。

律儀な漱石は翌々日、社へ出向いて段取りをつけ、青楓宛てに手紙を綴った。

《一昨日は失礼、その節御話の事今日社に相談して見たところ、挿画の需要ある趣ゆえ大兄の事申入候。あなたの画を三四枚(種類の異ったもの一枚ずつ、精密なるもの疎なるもの等)至急京橋区滝山町四朝日新聞内渋川柳次郎宛にて御送り下されたく候。

渋川氏はその儀につき一覧の上適当と認むるならば、こういう種類とかああいう種類とか指定して、改めて御願い致すはずに候》

新聞社の方でも紙面に入れる挿絵は求めているところがあるから、すぐに作品見本を送ってみたらいい、というのである。渋川柳次郎とは、社会部の渋川玄耳。固陋のところはあるが、仕事はできる人だった。

津田青楓装幀の漱石の著作『草合』(縮刷本)。大正6年に春陽堂より刊行された。中には『坑夫』と『野分』が収録されている。

津田青楓装幀の漱石の著作『草合』(縮刷本)。大正6年に春陽堂より刊行された。中には『坑夫』と『野分』が収録されている。

漱石先生と青楓は、こののち、だんだんと親しさを増していくことになる。青楓はのちには、漱石の著作の装幀も手がけている。

■今日の漱石「心の言葉」
どうもお土産を有難う(『明暗』より)

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夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

Web版「夏目漱石デジタル文学館
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館。同館のサイトに特設されている「Web版 夏目漱石デジタル文学館」では、漱石自筆の原稿や手紙、遺愛品、写真など漱石にまつわる貴重な資料画像を解説付きで公開しています。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『こぼれ落ちた一球 桑田真澄、明日へのダイビング』(日本テレビ)『石橋を叩いて豹変せよ 川上哲治V9巨人軍は生きている』(NHK出版)など多数。

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