新着記事

ホテルオークラ元総料理長の『わが家でプロの味』|フルーツティー

ホテルオークラ東京の開業以来、50年にわたり腕をふるった元総料理長のレシピ本『ホテルオークラ元総料理…

東大・山本博文教授と歴史探偵家・高橋伸幸氏が江戸の藩主たちを斬る! 〜『サライの江戸 江戸三百藩大名列伝』発売記念トークショー〜

好評発売中の「サライの江戸」シリーズ。その第3弾『江戸三百藩大名列伝』の発売を記念してトーク…

50代からのエゴな生き方|楽しく生きる中年はちょっと「ワガママ」

文/印南敦史『50代からのちょっとエゴな生き方』(井上裕之著、フォレスト出版)の著者…

ペントミノパズル|シンプルで奥深い立体組み合わせパズル

蓋を開けると、きれいに並んだ市松模様が見える。だが、市松模様を作るだけのパズルではない。…

「周りが介護度の高い入居者ばかりで、毎日が楽しくない……」有料老人ホームやサ高住でのミスマッチはなぜ起こる?

取材・文/坂口鈴香先日、新聞に70代の男性による次のような趣旨の投稿が掲載された。…

村松誠氏が描くウイスキーキャットラベルの特別なウイスキー

その昔、ウイスキーの蒸留所には、原材料である大麦を守る役目を与えられ、また職人たちにマスコットのよう…

遭難を防ぐ!山歩きを始めるあなたに伝えたい3つのこと

文/鈴木拓也息の長い「山歩き・登山」ブーム。『レジャー白書』によれば、2016年にお…

微笑みの国タイの原点!世界遺産スコータイの歴史探訪

文・写真/横山忠道(海外書き人クラブ/タイ在住ライター)タイの世界遺産というと「古都アユタヤ…

本柿渋染頭陀袋|金具も化学染料も排した柿渋染めの“和サコッシュ”

修行僧が旅をするときに、経文や食器や托鉢の恵みなど納め、首からかける袋が「頭陀袋」。そこから…

ペットの死、その時あなたは? 獣医さんが提案する幸せな旅立ち

文/柿川鮎子ペットと暮らす幸せは何にも代えがたいものがあります。ある人は「犬や猫や小鳥がいな…

サライ最新号

ピックアップ記事

>>過去の記事へ

サライの通販

>>過去の記事へ

全国の美味がお取り寄せいただけます

趣味・教養

夏目漱石、教え子から届いた中国の硯が壊れていて泣く。【日めくり漱石/5月30日】

2 夏目漱石

今から104 年前の今日、すなわち明治45年(1912)5月30日、漱石は待ちかねていた硯を、ようやく手にしていた。

それは、熊本五高時代の漱石の教え子である橋口貢が中国から送ってくれたものだった。当時、橋口貢は東大の政治科を経て外交官となり、清国湖北省沙市日本領事館に勤務していた。

代金は為替で送るつもりでいたが、橋口貢からは、「弟の清へ渡してもらえば、弟が赤坂の留守宅の方へ届けてくれるので」といった趣旨を伝えてきていた。

貢の弟の橋口清は、一般には「橋口五葉」の名前で知られ、画家・装丁家として活躍。『吾輩は猫である』『草枕』『虞美人草』『門』など、多くの漱石作品の装幀を手がけることになった人物である。

そもそものきっかけは、明治37年(1904)秋、漱石の紹介で雑誌『ホトトギス』に挿絵を描いたことだった。漱石は当初、『ホトトギス』の編集発行人である高浜虚子に、挿絵画家として橋口貢を推薦しようとした。漱石と貢とは、この頃、盛んに自筆の絵葉書をやりとりしていて、貢の描いた駱駝(らくだ)の絵が、虚子の求める誌面刷新のための挿絵のイメージと重なるように思えたのである。

ところが、漱石から話を聞いた貢は、自分より弟の清(五葉)の方が適任ではないかと返事をした。漱石は《御舎弟でも無論よろしく候》と返す。橋口五葉はまだ東京美術学校西洋画科に在籍する学生の身だったが、こうした経緯(いきさつ)から『ホトトギス』に挿画を描きはじめた。それが自然と、漱石の本の装幀の仕事へとつながり、そこから他の作家の本の装幀も手がけることになっていった。

橋口五葉はこの後さらに、浮世絵研究にも精を出し、それを継承するオリジナルの木版画を制作し、「大正の歌麿」という異名を冠されていく。

仕事で中国に赴任していた橋口貢が、大正元年10月、現地から漱石に送った銅製香炉。漱石は実際にこれを使って香を焚いていたようで、後年、この香炉から煙が立ちのぼるさまを「筆立てと香炉図」に描いている。神奈川近代文学館所蔵

仕事で中国に赴任していた橋口貢が、現地から漱石に送った銅製香炉。漱石は実際にこれを使って香を焚いていたようで、後年、この香炉から煙が立ちのぼるさまを「筆立てと香炉図」に描いている。神奈川近代文学館所蔵

話を中国から届いた硯に戻す。

漱石は以前から、本場・中国の文房具に興味と趣味を持っていた。東京にも行きつけの骨董屋があって時々覗いてみたりする一方で、たまたま現地に赴任するという橋口貢にも依頼して、香炉や鼎なども送ってもらっていた。その際、「硯もよいものがあればぜひ買い求めてほしい」と伝えてあった。師からのこの願いに応え、貢は仕事の合間を縫って、良品を探していた。

送られてきた硯は、なかなか趣深い逸品で、漱石は非常に嬉しく思った。値段は5円だったと貢からの手紙に書かれていたが、東京ではとてもそんな値段では買い求められないような掘り出し物に見えた。

ただ、それだけに、運搬の途中で上蓋の前後が欠けてしまったのが残念で、涙が出るほど痛ましく感じられるのだった。

どこかで修繕できないものかと心にかけていたところ、ひと月ほど後、漱石は適当な店を探しあてた。早速、その唐木細工屋へ依頼して、欠けた上蓋を直してもらった。修繕の出来上がりは予期していた以上で、色合いも同じで継目もわからないくらい。

漱石は橋口貢の好意にも報いられたような心地がして、ほっと安堵するとともに、いよいよ満足感を味わったのだった。

■今日の漱石「心の言葉」
好悪はある意味よりして人間の一部にあらずして人間の全体なり。理非曲直の嘴(くちばし)を入れて左右すべきにあらず(『文学論』より)

夏目漱石肖指定画像(神奈川近代文学館)720_141-02a

夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

Web 夏目漱石デジタル文学館
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館。同館のウェブサイトに特設されている「Web版 夏目漱石デジタル文学館」では、漱石自筆の原稿や手紙、遺愛品、写真など漱石にまつわる貴重な資料画像を解説付きで公開しています。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜(5月2日は開館)
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『こぼれ落ちた一球 桑田真澄、明日へのダイビング』(日本テレビ)『石橋を叩いて豹変せよ 川上哲治V9巨人軍は生きている』(NHK出版)など多数。

【関連記事】

漱石先生、文人画家としてのデビューを果たす【日めくり漱石/5月28日】

漱石先生、家政婦お梅さんの結婚式で「花嫁の父」になる。【日めくり漱石 5月27日】

漱石先生、吉原帰りに傑作「虞美人草」のタイトルをひらめく。【日めくり漱石 5月26日】

歴史的瞬間!夏目金之助が「夏目漱石」になった日【日めくり漱石/5月25日】

「日めくり漱石」の記事一覧

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

Twitter で

関連記事

  1. 漱石の原作を大胆に脚色!幻の漫画付き『坊っちゃん』と『吾輩は猫で…
  2. 夏目漱石の日々を描く「日めくり漱石」人気記事TOP10
  3. 死せる夏目漱石、漱石山房の年越しを静かに見守る。【日めくり漱石/…
  4. 入院中の夏目漱石、病室で年越しの感慨にふける。【日めくり漱石/1…
  5. 夏目漱石、障子の張り替えを手伝った門弟にバイト代を奮発する。【日…
PAGE TOP