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『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』…数々の名作を世に残した文豪・夏目漱石が没して今年でちょうど100年。漱石は小説、評論、英文学など多分野で活躍する一方、慈愛に富んだ人間味あふれる紳士でもありました。そんな漱石の「日常」を辿りながら文豪の素顔が見える逸話を取り上げ、小説、随筆、日記、書簡などに綴った「心の言葉」とともに毎日お届けします。


■今日の漱石「心の言葉」

すべての発達は、どうしても人間に気力--精神がなければできない(『戦後文界の趨勢』より)

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漱石の『坊っちやん』と『吾輩は猫である』が同時掲載された雑誌『ホトトギス』明治39年4月号の目次。写真/日本近代文学館蔵


【1906年3月14日の漱石】

漱石の体内で、創作意欲が抑えようもなく、次から次へと沸き上がっていた。

この1年余、大学や高校で教壇に立つ合間を縫って、雑誌『ホトトギス』への『吾輩は猫である』の連載と並行して『倫敦塔』『カーライル博物館』『琴のそら音』を発表してきて、いままた、天恵のひらめきのように、『坊っちゃん』の構想を得たのである。

それが今から110 年前の今日、明治39年(1906)3月14日の出来事だった。

筆の運びも一気呵成(いっきかせい)。《親譲りの無鉄砲で、いつも損ばかりしている》という、あの有名な書き出しから始めて、3日後の17日には原稿用紙30余枚、3月23日には109 枚まで書き進めている。

このころ漱石は、松屋製の24字詰め24行という変則的な原稿用紙を使用していた。1枚の文字数が576 字。標準的な400 字に換算すると、10日足らずの間に157 枚。1日に17~18枚のスピードで筆を走らせていたことがわかる。

《だから、清の墓は小日向(こびなた)の養源寺にある》

という余韻と情趣に富んだ結びを書いて、全編が脱稿したのは、3月26日か27日のことと推察される。漱石は、構想を得てからわずか2週間足らずの間に、あの傑作を書き上げたのである。

こうして、その後ほどなく発行された『ホトトギス』4月号には、『吾輩は猫である』第10回の原稿と合わせて、『坊っちゃん』の全文が掲載された。

漱石先生、小説家として、のりにのっている39歳の春である。

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夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

 
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館は、漱石没後100年を記念して文豪の作品世界と生涯を展覧する特別展「100年目に出会う 夏目漱石」を開催する。会期は2016年3月26日(土)~5月22日(日)、開館時間は9時30分~17時(入館は16時30分まで)、観覧料は700円。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜(5月2日は開館)
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

 
文/矢島裕紀彦 
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『こぼれ落ちた一球 桑田真澄、明日へのダイビング』(日本テレビ)『石橋を叩いて豹変せよ 川上哲治V9巨人軍は生きている』(NHK出版)など多数。

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