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夏目漱石、朝日新聞の紙面改革を画策する。【日めくり漱石/2月1日】

『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』…数々の名作を世に残した文豪・夏目漱石が没して今年でちょうど100年。漱石は小説、評論、英文学など多分野で活躍する一方、慈愛に富んだ人間味あふれる紳士でもありました。そんな漱石の「日常」を辿りながら文豪の素顔が見える逸話を取り上げ、小説、随筆、日記、書簡などに綴った「心の言葉」とともに毎日お届けします。


■今日の漱石「心の言葉」

余計なことをいわずに歩いていれば、自然と山の上へ出るさ(『虞美人草』より)

文芸雑誌『文学界』の同人たち。前列右から、星野夕影、戸川秋骨、星野天知、上田敏。後列右から、平田禿木、馬場孤蝶、島崎藤村。明治27年4月撮影。写真/日本近代文学館蔵

文芸雑誌『文学界』の同人たち。前列右から、星野夕影、戸川秋骨、星野天知、上田敏。後列右から、平田禿木、馬場孤蝶、島崎藤村。明治27年4月撮影。写真/日本近代文学館蔵

 
【1908年2月1日の漱石】

今から108年前の今日、すなわち明治41年(1908)2月1日、数え41歳の漱石は、現金の入った1通の封筒を携え、東京郊外の大久保仲百人町(現・新宿区百人町)に向かった。評論家で英文学者の戸川秋骨(とがわ・しゅうこつ)の家を訪問するためだった。秋骨は漱石より4歳年下。文芸同人雑誌『文学界』の同人として、島崎藤村、北村透谷(きたむら・とうこく)、馬場孤蝶(ばば・こちょう)、平田禿木(ひらた・とくぼく)、樋口一葉らとも交流のあった人物だった。

漱石と秋骨は、淡白な中にも、私的領域に踏み込んだ交際をしていた。半年前、漱石が引っ越し先を物色していた折には、秋骨に「大久保近辺に貸家があったら教えてほしい」と頼んだこともあった。

漱石はこの頃、朝日新聞の社員(小説記者)となっていた。出社義務はなく、月給をもらって定期的に連載小説や批評文などを書くのが仕事だった。そのかたわら、そのときどきの必要に応じて、他の書き手を探して執筆依頼をする編集プロデュース的な役割もこなしていた。そんなことで、少し前、秋骨は漱石から頼まれ原稿を執筆した。その稿料を新聞社から預かり、漱石は封を切らずに持参したのだった。

わざわざ自分で原稿料を届けようとしたのには、わけがあった。

漱石は新聞の紙面改革を企図していた。小説欄とは別に自分の責任で運営する連載枠を作り、日々、様々な評論文や随筆作品を掲載し、紙面を活性化していきたいと考えていたのである。そのことについて、以前から社にも提案をしていたし、秋骨にも意見を求めていた。この日、秋骨に会って、再びそのことについて相談をしたいと思っていた。

あいにく、秋骨は留守だった。漱石は稿料を秋骨夫人に預けて帰宅した。思うところは手紙にしたため、投函した。自分の思うような紙面改革ができた暁には、ぜひご尽力を願いたい、と。

だが、物事は簡単に運ばないことも、ままある。実際に東京朝日新聞紙上に漱石肝入りの「文芸欄」が創設されるには、この後まだ2年近い歳月を要する。それでも思いを達成したのは、漱石先生の根気強さの賜物だっただろう。

夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

 
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館は、漱石没後100年を記念して文豪の作品世界と生涯を展覧する特別展「100年目に出会う 夏目漱石」を開催する。会期は2016年3月26日(土)~5月22日(日)、開館時間は9時30分~17時(入館は16時30分まで)、観覧料は700円。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜(5月2日は開館)
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

 
文/矢島裕紀彦 
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』『漱石「こころ」の言葉』『文士の逸品』『石橋を叩いて豹変せよ』など。

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