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『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』…数々の名作を世に残した文豪・夏目漱石が没して今年でちょうど100年。漱石は小説、評論、英文学など多分野で活躍する一方、慈愛に富んだ人間味あふれる紳士でもありました。そんな漱石の「日常」を辿りながら文豪の素顔が見える逸話を取り上げ、小説、随筆、日記、書簡などに綴った「心の言葉」とともに毎日お届けします。


■今日の漱石「心の言葉」

人間はね、自分が困らない程度内で、なるべく人に親切がしてみたいものだ(『三四郎』より)

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漱石自身も鰻は好物。『吾輩は猫である』では、地方から上京した叔父に向かって、迷亭にこんな台詞を言わせている。「時に叔父さんどうです、久し振りで東京の鰻でも食つちやあ。竹葉でもおごりませう」。写真は東京・神保町で3代続く鰻の名店『なかや蒲焼店』の鰻丼。住所/東京都千代田区神田神保町2-13 神保町SFビル1階 電話/02-3221-6776

 
【1911年1月21日の漱石】

今から114年前の今日、すなわち明治44年(1911)1月21日、東京は白一面の景色を呈していた。前々日の夜から前日にかけての降雪の名残りだった。

この日、数え45歳の漱石は、東京・内幸町の長与胃腸病院に入院していた。伊豆・修善寺で大量吐血するも危ういところで命をとりとめ、帰京し、この病院へ運び込まれてから100日余りが経過していた。食事や入浴も普通にできるようになり、「退院」の二文字も遠からぬことを感じられるようになってきていた。看護婦が買ってきてくれた紅梅の梅を病室に飾り、ひと切れの小さな餅が入ったひと椀の雑煮で元日を祝ったことも、ひとつの思い出に変わろうとしていた。

体調管理のため体重を測ると54・8kgだった。2週間前は53・3kg、1週間前は54・2kg。着実に回復してきている様子が、数字からも窺えるのだった。

午前中、門弟の小宮豊隆が坂元雪鳥とともに見舞いに訪れた。もとをたどれば、豊隆は東大で、雪鳥は熊本五高で、それぞれ漱石の講義を聴いた教え子であり、その後もずっと師弟としての交流が続いていた。雪鳥は、4日前、逗子に引っ越したばかり。逗子到着後、雪鳥は漱石へ長い手紙を書き送り、漱石はその返事を昨日投函したところだった。

その雪鳥が目の前に現れたのだから、漱石はちょっと驚いたかもしれない。

このふたりの見舞い客の昼食のために、漱石先生は奮発し、鰻丼の出前をとってご馳走した。どっちが見舞われているのかよくわからない構図だが、そうせずにはいられないのが漱石という人だった。自分が充分に食欲を発揮できない分、門弟たちの旺盛な食べっぷりを見るのも、案外と楽しかったに違いない。

夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

夏目漱石(1867~1916)江戸生まれ。帝国大学文科大学(現・東京大学)英文科卒。英国留学、東京帝大講師を経て、朝日新聞の専属作家に。数々の名作を紡ぐ傍ら、多くの門弟を育てた。代表作『吾輩は猫である』『坊っちやん』『三四郎』『門』『こころ』など。家庭では鏡子夫人との間に7人の子を儲けた。写真/県立神奈川近代文学館所蔵

 
夏目漱石に関する資料を数多く所蔵する県立神奈川近代文学館は、漱石没後100年を記念して文豪の作品世界と生涯を展覧する特別展「100年目に出会う 夏目漱石」を開催する。会期は2016年3月26日(土)~5月22日(日)、開館時間は9時30分~17時(入館は16時30分まで)、観覧料は700円。

県立神奈川近代文学館
住所/横浜市中区山手町110
TEL/ 045-622-6666
休館/月曜(5月2日は開館)
神奈川近代文学館の公式サイトはこちら

神奈川近代文学館外観_2

横浜港を一望できる緑豊かな「港の見える丘公園」の一画、横浜ベイブリッジを見下ろす高台に立つ神奈川近代文学館。夏目漱石に関する資料を多数所蔵する。

 
文/矢島裕紀彦 
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』『漱石「こころ」の言葉』『文士の逸品』『石橋を叩いて豹変せよ』など。

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