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田園に回帰!農業で第二の人生を豊かに送るための指南書『定年就農』【印南敦史の定年本イッキ読み9】

文/印南敦史

定年後は田舎で農業をやりながら、自然で豊かな第二の人生を送りたい、と考えている人は少なくないだろう。

今回ご紹介する『定年就農』(素朴社)の著者・神山安雄氏は、全国農業新聞編集部長、全国新規就農相談センター所長など、長らく“農”周辺の仕事に携わったのち、退職後はフリーの農政ジャーナリストとして活動しているという人物だ。

そのような経験を軸として書かれた本書は、50代、60代の人たちが農業にたずさわりながら、第二の人生を豊かに送るための指南書ということになる。

ただし、それだけではなく、もうひとつ重要なポイントがある。「小さな農でつかむ生きがいと収入」というサブタイトルがついていることからもわかるとおり、仕事として成功させるための事例集にもなっているのだ。

本書には、50代、60代で農業に携わることになった20組の事例が紹介されているが、実際のところ近年、農村に移住して農業にたずさわりたいと考える人は、増えているのだそうだ。それは、農業の持つ魅力や、都市生活にはない農村暮らしの魅力に、多くの人たちが気づきはじめたからだと著者は分析している。

事実、農林水産省の統計によれば、新たに農業が仕事の種になった「新規就農者」のうち、年代別でもっとも多いのは60代以上であり、50代まで含めれば、2014年で50歳上が全体の6割以上を占めているのだという。

ちなみに彼らが農業をはじめた理由は、大きく2つに分類される。

まず最初が、「農業が好きだから」「農村の生活(田舎暮らし)が好きだから」「自然や動物が好きだから」というような自然・環境志向、そしてもうひとつが、「食べものの品質や安全性に興味があったから」「有機農業をやりたかったから」などの安全・健康志向である。

長らく会社でストレスと隣り合わせの日常を続けてきた人たちが、退職後にそのような生き方を選択するというのは、どことなく納得できる話ではないだろうか?

とはいえ、やはり気になるのは、サブタイトルにある「生きがいと収入」が本当に得られるのかという問題だ。前者の「生きがい」については、農業という仕事を選択した時点で得られることになるだろう。しかし問題は、後者の「収入」である。

その点について、本書で紹介されている新規就農者はどう考えているのか? その点を探るためには、第2章「小さな農で稼ぐ」に紹介されている、神奈川県足柄上郡松田町で野菜の栽培と直売を行なっている夫婦の事例が参考になりそうだ。

ともに県の「農業塾」で学び、新規収納を果たしたという夫婦である。いまでは役割分担をしながら、それぞれが好きな野菜を栽培し、畑仕事で心地よい汗を流しているのだそうだ。

採れた作物を売るのは、団地の自宅前に設置した直売所。火曜と土曜の週2回、春はジャガイモ、ズッキーニ、カブ、春キャベツ、タマネギ、夏はキュウリ、ミニトマト、ナス、ピーマン、コマツナ、スウィートコーン、シシトウ、オクラ、カボチャなど、秋、冬は食用菊、ネギ、油菜、キャベル、ハクサイ、ダイコンなどを収穫し、販売しているという。

近くにコンビニしかないこともあり、2人がつくる新鮮な野菜は人気なのだとか。しかし、だからといって、それだけで生活できるのだろうか? この点については、畑の楽しさが記された後に登場する、次の記述が参考になるかもしれない。

とはいえ、農業だけで暮らしのは難しい。年間売上げは150万円程度。純利益は少ない。年金があるから生活できる。春美さんは、

「パート(の賃金)くらいとれればと思ってはじめた」

むろん、食べ物には困らない。収穫物と農家仲間の交換もあるからだ。

「好きな野菜を種から作って苗を育て、それが実って収穫すれば売り上げにもなる。景色もいい。勤めていた頃は、月曜の朝から憂鬱だった」

広さんにとって農業は、おカネよりも心身の健康と人のつながりをもたらすもののようだ。(本書 より引用)

つまり、収入を得るとはいっても、それで財をなそうというわけでは当然ない。食べる心配をすることなく、自然のなかで体を動かすことによって生きる喜びを享受する。それが目的だといっても過言ではないのだ。

当然ながら、本書に登場する全20組の考え方や生き方はそれぞれ異なる。しかし、共通する部分は、おそらくこの部分に集約されるのではないだろうか?

働くことで満足感を得る――それこそが、お金よりも大切なことなのだろう。

【今回の定年本】
『定年就農』
(神山安雄著、素朴社)
http://www.sobokusha.jp/detail/978-4-903773-25-4

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)などがある。

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