定年後への備え方を「定年先輩」の実体験から学ぶ一冊!『定年後を楽しむ人・楽しめない人』【印南敦史の定年本イッキ読み5】

文/印南敦史

今回紹介する『定年後を楽しむ人・楽しめない人』(金田義明著、洋泉社)は、長らく実年社員を対象にした「定年準備教育」に長く関わってきたという著者が記した一冊。ベースになっているのは、「定年先輩」から語ってもらった定年体験なのだという。

中心テーマは“「気づき」のすすめ”。だとすればそこには、社会保険サービスや行政サービスなど、社会生活のノウハウも含まれるだろう。しかし、それ以上に重要な意味を持っているのは、定年を越えていく生き方への「気づき」だ。

「定年ってのは線路の果ての『終着駅』みたいに思っていましたが、いざ、そばに来てみると終着駅じゃなくて『乗り換え駅』なんですね。ここで列車を乗り換えてまだ先に二十年って言うんでしょう。二十年っていえばオギャアと生まれてから成人式までの長さであり、人生八十年というのなら四分の一に当たるわけです。“ついで”や“おまけ”でどうなるものではないですな」(本書「はじめに」より引用)

なるほど「これからの二十年」というスパンであれば、できることはたくさんありそうだ。しかし重要なのは、その期間を有意義に過ごしたいのであれば、定年が「乗り換え駅」だということに少しでも早く気づくべきだということである。もちろんそれは、心構えや準備ができるくらい余裕のある「気づき」だということになる。

定年を、「いつかそのうち訪れるもの」という程度に捉えている人は決して少なくないかもしれない。しかし、いつまでもんな気持ちでいると、突然訪れた定年の日に戸惑うことになっても不思議はない。だからこそ「定年先輩」の多くの言葉に学び、よりよい定年後に備えるべきだということだ。

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本書の第1章と第2章で焦点が当てられているのは、おもにお金の話である。「主人が定年退職のとき、奥さんの年齢がまだ60歳未満だと、彼女が60歳になるまでは国民年金の保険料を払わなければならない」など、定年になってからでないとなかなか気づかないことに焦点を当てているのである。

ある意味では、冒頭からいきなりシビアな現実を突きつけられるわけである。しかし定年後を楽しく過ごしたいのなら、それはきわめて重要な話題であるはずだ。

だがトピックとしては、第3章の「定年で消える『六つの生きがい要素』のほうがインパクトは大きいかもしれない。定年を迎えたサラリーマンがまず味わうのは、うきうきとした「開放感」だそうだが、問題はそのあと。

すなわちその段階で、「激変する現実」を突きつけられることが多いというのである。それが、定年で誰もが失う「六つの生きがい要素」だ。

それは、「群れ」を失うこと、「仕事」を失うこと、「収入」を失うこと、「看板と肩書」がなくなること、「人間関係」が激減していくこと、そして「情報のルート」を失ってしまうこと。

もちろん他にも「積み重ねてきた腕や経験」「それらに対する周囲の評価」「個人として持っている人間関係」などもあるだろう。しかし上記6つの要素が一度にごっそりと消えれば、精神的に大きな空洞が生まれることは想像に難くない。

だからこそ「生き方計画」を用意することが大切だということだが、たしかに早い段階でそこに目を向けておかないと、あとから大変なことになりそうだ。

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とはいえ暗い話ばかりではもちろんない。注目すべきは、第7章で明らかになる「80人の定年先輩の『生きがいづくり』」だ。「本物の生きがい」になっているものには、共通する3つの条件があるというのだ、

第一は、「そのためになら少しぐらいカネを使っても惜しいと」思わないもの。第二は「それをやっていれば時間を忘れる」もの。第三は、「ド素人ではだめ。20〜30分は公爵ができる」こと。そうした条件が揃った課題を持っていれば安心だということである。

たしかにそういう価値観があれば、「することがない」と引きこもってうつ病の心配をする必要はないかもしれない。

つまり本書を読むと、そんな、当たり前だけれど忘れてしまいがちなことを再確認できるのである。定年後の生活や環境は、なかなかイメージしにくいものであるだけに、ここからは多くのことを学べることだろう。

【今回の定年本】
『定年後を楽しむ人・楽しめない人』
(金田義明 著、洋泉社)

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)などがある。

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