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のんびり気ままな「汽車旅」を10倍楽しむための一冊!『定年からの鉄道旅行のススメ』【印南敦史の定年本イッキ読み3】

文/印南敦史

定年を過ぎて時間に余裕ができると、現役時代にはできなかったことも実現できるようになる。たとえば、そのいい例が旅行だ。なかでも鉄道旅行は、ゆったりとした時間を楽しむ格好の機会だといえよう。

2013年に発行された『定年からの鉄道旅行のススメ』(野田 隆著、新書y/洋泉社)は、「乗りテツ」である著者が、男のロマンというべき鉄道旅行の楽しみを記した新書。前年の『定年からの鉄道ひとり旅』が好評だったために生まれた第二弾である。

前作が、鉄道旅行の楽しみ方をカタログ的に紹介したものだったのに対し、今作は項目を絞ったうえで、紀行文的な要素も加味しながら書かれているという。

基本的には鉄道旅行初心者でも無理なく読める内容だが、あまり知られていない路線や列車についての記述も盛り込まれているため、ある程度の「鉄道旅行キャリア」を持った人にも十分楽しむことができる。

さて、鉄道旅行と聞いてすぐに思い浮かぶのはローカル線だ。というわけで、まず第1章ではローカル線の旅の魅力が語られる。著者自身の体験に基づく情景描写は、ローカル線への好奇心を刺激してくれる。

続いて第2章では、「青春18きっぷ」に焦点を当てている。その名称から若者向けのようなイメージが持たれがちだが、実際には年齢制限なし。使い方の自由度も高いだけに、そのメリットを存分に使おうという実用的な解説だ。「Suica」の活用と合わせて、旅先でも大いに役立ってくれそうだ、

第3章で、特別な車両を使った「観光列車」に焦点を当てているのも楽しい。しかも有名な「ジパング」などの観光列車を紹介しているだけでなく、ユニークな観光列車の代表というべきSL列車の撮影法にも触れている。動いてみることで、観光列車の楽しみはより大きくなるということである。

個性的な私鉄や第三セクター鉄道に焦点を当てた第4章も、マニア心をくすぐってくれることだろう。その他、駅の探訪という観点から旅を捉えた第5章や、路面電車での街歩きを推奨する第6章も、視点そのものがユニークだ。

このように、本書の魅力は鉄道旅行をさまざまな角度から考察している点にある。意外性も含め、好奇心を絶妙に刺激してくれるのだ。

しかし、それだけではなく、こののち最大のクライマックスが訪れる。前著にはなかった新たな試みである、第7章「小説に登場する列車を探す旅」がそれだ。松本清張『Dの複合』に登場する列車をモチーフにして、主人公の移動ルートの謎などを解き明かしているのである。

「小説にさりげなく登場する列車は、それ自体がテーマでないかぎりは、詳しく書かれてはいない。しかし、わずかな手がかりから、登場人物は、どんな列車に乗って、どんな行程をたどったのかを推理することは楽しい作業である。時には、スムーズに該当列車が分かる場合もあるし、時には矛盾が露呈して、推理が困難になる場合もある。そして、今だったら、そのたびは可能かどうかを考えてみるのも一興であろう。」(同書より引用)

この文章は、小説に登場する列車を探す旅の楽しさを見事に表現している。だが視野を広げてみると、鉄道旅行そのものにもいえる部分が多いように思える。

迷ってみたり、あるいは遠回りをしてみたり、予測不可能な状況を楽しむことそれ自体が、鉄道列車の醍醐味だということだ。

【今回の定年本】
『定年からの鉄道旅行のススメ』
(野田 隆著、新書y/洋泉社)

文/印南敦史
作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。雑誌「ダ・ヴィンチ」の連載「七人のブックウォッチャー」にも参加。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)などがある。

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