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文/小林弘幸

「人生100年時代」に向け、ビジネスパーソンの健康への関心が急速に高まっています。しかし、医療や健康に関する情報は玉石混淆。例えば、朝食を食べる、食べない。炭水化物を抜く、抜かない。まったく正反対の行動にもかかわらず、どちらも医者たちが正解を主張し合っています。なかなか医者に相談できない多忙な人は、どうしたらいいのでしょうか? 働き盛りのビジネスパーソンから寄せられた相談に対する「小林式処方箋」は、誰もが簡単に実行できるものばかり。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説します。

上司や取引先から理不尽に叱られたら、

A.反論する

B.沈黙する

認識すれば怒りの50%は収まる

あなたが悪くなかろうが、たとえ理不尽であろうが、ビジネスパーソンである以上、上司や取引先から叱責されることは必ずあります。

でも、自分のミスならともかく、相手のほうが間違っていたら……。反論したい気持ちに駆られるのは当然です。

しかしこれは、自律神経の見地から言うと、間違った行動です。なぜなら「反論する」という行動には、多かれ少なかれ怒りが伴います。実は、この怒りの感情が自律神経を大きく乱します。すると、またしてもその日1日が低調になってしまいます。

この他、自律神経が乱れると血流が悪くなり、脳に十分な酸素と栄養素が行き渡らなくなるので、冷静な判断ができなくなり、感情の抑制が効かなくなります。

いったん怒り出すと、収拾がつかなくなる状況ってありますよね? 怒りで感情の抑制を失った結果、怒りの感情を抑えることができなくなっているのです。

反論するあまり、暴言を吐いてしまった、という経験もあると思いますが、これは自律神経の作用だったりします。

ではどうするべきか。

そんな時は沈黙する。この選択こそベターです。

「ああ、自分は怒りそうだな」「感情のスイッチが入りそうだな」と感じたら、とにかくいったん、口を閉じましょう。そして大きく深呼吸するのです。「怒り」という感情は不思議なもので、「今、怒りそうだ」と認識できた瞬間に、怒りの50%が収まってしまうのです。そして大きく深呼吸。これでたいていの怒りは鎮まるものです。

自律神経と呼吸の深い関係が判明

ではどうして「深呼吸」することがいいのでしょうか。

深呼吸すると心が落ち着くということは、以前から実感としてありましたが、科学的には明らかになっていませんでした。理由が判明したのは、ここ最近のことです。ようやく末梢血管の血流量を測る機械が開発されたのです。

これまでは科学的な計測ができなかったので、末梢血管の多寡は、体の温度を色で表示する「サーモメーター」で判断していました。しかしサーモメーターでは、正確な血流量までわからないので、いくら「深呼吸すると心が落ち着く」という結果が出ても、それを数値として論文に掲載できないので、医学的に認められなかったのです。

末梢血管の血流量を測る機械が登場したことで、さまざまな研究が始まりました。私も導入して使ってみたのですが、いちばん驚いたのは、呼吸を止めた瞬間に、末梢血管の血液が流れにくくなったことでした。逆に、呼吸をすると末梢血管の血液量が増加しました。

つまり、深い呼吸をすると副交感神経を刺激し、血管が開きます。末梢血管まで血が行き渡るので、筋肉が弛緩します。つまり体がリラックスした、ということです。

緊張している時、体がこわばっていますよね? あれは、末梢血管まで血が行き渡っていない、ということです。「フリーズ状態」とも言います。

こうなると体だけでなく、頭も働きません。頭にも血が回らず、低酸素状態に陥っているからです。呼吸は浅く速くなり、交感神経の割合が高くなっています。この低酸素状態が長く続くと、手足が震え、さらに悪化すると失神してしまうことさえあります。

極度に緊張した時に、手足が震えることがありますよね? あれは、自律神経のバランスが極端に崩れたことを知らせる、ひとつのシグナルでもあったのです。

怒りで震える、という言葉がありますが、あれも怒りで末梢血管まで血が行き渡らず、低酸素状態に陥っている、ということなのでしょう。

体のこわばりやしびれは、筋肉の問題です。筋肉をコントロールしているのは血流で、血流をコントロールしているのは自律神経です。では自律神経を確実にコントロールできるものは何か。それが「呼吸」であることが医学的に証明されたのです。

私たちが「強い怒り」を覚えることは、職場や家庭など、身近な人間関係の中だけとは限りません。通勤途中の電車の中で、街の中で、あるいはテレビ画面の中で、「嫌なもの」や「嫌なこと」を見聞きし、イライラして怒りたくなることは多いでしょう。

しかし、少しでも怒りを覚えたら、その時点であなた自身の自律神経が乱れてしまいます。些細なことのようですが、自身の日常にとって大きな損失です。

こんな時、私は、日光東照宮の「三猿」を思い浮かべるようにしています。目を塞いだ「見ざる」、耳を塞いだ「聞かざる」、口を塞いだ「言わざる」の三猿です。江戸初期の左甚五郎作と伝わる日光東照宮のレリーフで有名ですね。

『論語』にもこうあります。

《子の曰わく、礼に非ざれば視ること勿かれ、礼に非ざれば聴くこと勿かれ、礼に非ざれば言うこと勿かれ》(金谷治『論語』岩波文庫)

「見ざる、聞かざる、言わざる」は、あの孔子も説いている「自律神経を乱さず、コンディションを整える」極意なのかもしれません。

答え   B.沈黙する

怒りの感情は、自律神経を乱すだけでプラス材料はない。反論したい時も、まずは沈黙。それでも反論すべき時は、時間を置いて自律神経を整えてから行う。基本的に、嫌なものは見ない。他人の悪口や自分への悪評が聞こえてきても聞かない。文句を言いたくなっても言わない。「見ざる、聞かざる、言わざる」と心の中で唱えて、時間が解決してくれるのを待つ。

『不摂生でも病気にならない人の習慣』

小林弘幸 著

小学館
定価 924 円(本体840 円 + 税)
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文/小林弘幸
順天堂大学医学部教授。スポーツ庁参与。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。また、日本で初めて便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」でもある。自律神経の名医が、様々な不摂生に対する「医学的に正しいリカバリー法」を、自身の経験も交えながら解説した『不摂生でも病気にならない人の習慣』(小学館)が好評発売中。

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