酒は本当に「百薬の長」なのか?医療専門家たちの回答が判明

文/鈴木拓也

「百薬の長」とか「飲んで鍛えれば強くなる」など、酒と健康の関係については、漠然としたイメージがつきまとう。もちろん適量を超えれば、アルコール中毒や肝臓がんのリスクがあることは誰しもご存知のはず。だが、その「適量」とはどれぐらいなのかが今ひとつ曖昧だし、健康情報にあかるい医者に左党が多いことは周知の事実。

果たして酒は健康に良いのか?、それとも悪いのか? 酒ジャーナリストとして知られる葉石かおりさんが、医療の専門家25人に取材してまとめた『酒好き医師が教える 最高の飲み方』(日経BP社)には、気になるその回答が記されている。

葉石かおり著『酒好き医師が教える 最高の飲み方』(日経BP社)

■「百薬の長」は条件付き

「Jカーブ効果」といって、飲酒量と総死亡リスクの相関関係を表したグラフは、Jの字を描く。つまり、飲まない人は意外にもリスクが大きく、適度に飲む人は最も小さい。そして適度を超えて飲むほどリスクはまた上昇するというものだ。これは、酒好きを喜ばせるデータなので、「百薬の長」の根拠としてよく引き合いに出される。しかし同書には、国立病院機構久里浜医療センター 樋口進さんの「(Jカーブ効果は)すべての疾患に対して当てはまるわけではありません。つまり、病気によっては、少量の飲酒でも悪影響を及ぼす可能性があります」という言葉が記されている。

樋口さんによれば、高血圧、脂質異常症、脳出血、乳がん(40歳以上)などについては、少量でも飲酒すればリスクが上がるという。一方で、心筋梗塞や脳梗塞のように死亡率が高い疾患は、適度な飲酒によって死亡率が下がる。この要因が大きいため、「総死亡率」で見ると、グラフはJカーブを描くカラクリがあると言う。「百薬の長」というのは、あくまでも条件付きなのである。

●酒の飲み過ぎは大腸がんのリスクを上げる

がん部位ごとの罹患者数で1位の大腸がん。50代から発症率が高くなるとのことで、われわれの世代には気になるところだが、飲酒との関係はどうなのだろうか? 同書ではこれについては、溝上哲也さん(国立国際医療研究センター)が答えている。

「男女ともに過度の飲酒で大腸全体、そして結腸、直腸がんのリスクが上がるという結果になりました。特に男性の場合は顕著に現れています」

1日あたり日本酒1合をちょっと超える程度の飲酒でも、(全く飲まない人に比べ)大腸がんにかかるリスクは1.4倍になるというから驚きだ。溝上さんは、葉酸が大腸がん予防と何らかの関連があるとして、葉酸を含む青野菜や柑橘系フルーツを摂るようにしたいと言うものの、「やはり飲み過ぎは避けたほうがいい」と諭す。

■本格焼酎・泡盛は血栓を防ぎHDLを増やす

本書に盛り込まれている情報は、なにも左党の気を滅入らせるようなものばかりではない。本格焼酎・泡盛には、動脈硬化や心筋梗塞など重篤な病を引き起こす血栓(血管内にできる血液の塊)の溶解を助ける働きがあると述べているのは、須見洋行名誉教授(倉敷芸術科学大学)だ。

「実は焼酎と泡盛にt-PAやウロキナーゼの分泌、活性を促す効果があることが実験で分かりました。『酒を飲まない人』と『本格焼酎・泡盛を飲んだ人』で比べると、t-PAやウロキナーゼの活性は、実に倍近くになっていました」

t-PA(組織プラスミノーゲン活性化因子)やウロキナーゼとは、血管内皮細胞から分泌され血栓の溶解にかかわる物質のこと。本格焼酎なら120mlの摂取が最適だという。

さらに須見氏は「芋焼酎と泡盛に限らず、そもそも本格焼酎にはHDLを増やす効果もある」と言う。HDLは俗に善玉コレステロールとも呼ばれ、コレステロールを肝臓へ運ぶことで、心筋梗塞・動脈硬化のリスクを下げる好ましい作用があるとされる。

*  *  *

ご紹介した『酒好き医師が教える 最高の飲み方』では、本格焼酎・泡盛の効能に続いて、赤ワインやビールの認知症予防効果や日本酒の美肌効果と、酒好きにはうれしい情報も披露されている。

もっとも、どの識者も異口同音に語るのは、酒は適量にとどめることの重要性だ(1日あたり日本酒なら1~2合、ワインならグラス2杯)。これを超えると、どう転んでも健康に悪いことが、本書を読み進むとよく分かる。

本書ではこのほか、悪酔い・二日酔い対策、つまみと肥満の関係、ウコンを摂りすぎるとかえって肝臓に悪いなど、トリビア的な話も満載で、健康意識の高低に関係なく、お酒が好きな人なら興味深く読めるであろう1冊だ。

【今日の健康に良い1冊】
『酒好き医師が教える 最高の飲み方』
(葉石かおり著、浅部伸一監修、本体1,400円+税、日経BP社)
http://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/17/264540/

文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。

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