人生100年時代を見据え、生涯、誰の世話にもならず、元気に天寿をまっとうする“健康長寿”の考え方が広く国民に定着しつつある。最近では、長患いをせず、亡くなる直前まで元気に暮らす「ピンピンコロリ」が理想とされ、それに向けて注目されているのがフレイルの対策だ。フレイルとは、加齢や疾患によって心身の活力や社会とのつながりが低下した、健康と要介護の中間状態のことで、フレイルになると要介護のリスクが高まっていく。フレイルの大きな要因の一つが、口腔機能の低下を意味する「オーラルフレイル」だ。フレイルの入り口であり、オーラルフレイル対策を講じることが、介護がなく自立して生活のできる健康寿命の延伸につながっていくといわれる。

今夏に開催された“世界口腔保健学術大会記念” 第27回口腔保健シンポジウム「今から始めるオーラルフレイル対策 ~私が守る! 100年health~」(主催:公益社団法人 日本歯科医師会、協賛:サンスター株式会社)では、このオーラルフレイルをテーマに、最新の対策のポイントなどがディスカッションされた。

シンポジウムには、歯科の各分野の最前線で活躍する大月基弘氏(日本歯周病学会 専門医、 日本臨床歯周病学会 認定医、 歯科医師)、平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長、 医学博士、 歯科医師)、小山茂幸氏(日本歯科医師会常務理事、 山口県歯科医師会会長、 歯科医師)の3名と、タレントの宮崎美子氏らがパネリストとして登壇。人生100年時代のオーラルフレイル対策についてトークセッションが行われた。本シンポジウムは、サンスター株式会社の協力のもと開催され、サンスター財団の歯科衛生士による自宅でできるブラッシングの方法も紹介。このシンポジウムから、シニアを中心とした読者にとって興味深い、健康寿命延伸につながるオーラルフレイル対策のポイントをまとめてみた。

ピンピンコロリで生涯を閉じるためにはオーラルフレイル対策が重要

シンポジウム開催にあたり、今回なぜオーラルフレイルをテーマとして取り上げたのか。小山氏が趣旨を説明した。

「多くの方がピンピンコロリで息を引き取りたいと言っておられますが、残念なことに、なかなか思うようにはいかないものです。現在、平均寿命と健康寿命の差は10年あります。多くの高齢者は、亡くなる前の10年間、要介護や寝たきりになってしまうようです」

「10年も続くのですね」と宮崎氏は驚く。

「ピンピンコロリで生涯を終えるにはどう対策すればいいのでしょうか」。参加者目線の宮崎氏の質問に会場全体が反応した。

「フレイルの前段階にオーラルフレイルがあります。むせる、滑舌が悪くなる、食べこぼすといった、些細なお口の機能の低下があると、フレイルになり、そのまま放っておくと寝たきりになってしまうかもしれません。ところが、フレイルの時に対策をとれば寝たきりにならず、心身を元の状態に戻すことができるのです。「ピンピンコロリ」で人生の最期を迎えるにはオーラルフレイルを理解していただくことが大切です。そして予防には歯の喪失対策と、お口の機能の維持がとても重要になっていきます。この2つに対してみなさんと考えていきたいと思います」(小山氏)

「健康で噛める歯を残す」 歯周病予防はオーラルフレイル対策の第1歩

大月基弘氏(日本歯周病学会 専門医 日本臨床歯周病学会 認定医 歯科医師)
1999年広島大学歯学部卒。大阪大学歯学部研修医を経て、スウェーデン王国イエテボリ大学歯学部歯周病学科専門医課程卒業。ヨーロッパ歯周病/インプラント専門医取得(EFP認定)。2013年にDUOデンタルクリニックを開設。歯周病治療とインプラント治療の専門医として活躍。

当時の厚生省(現・厚生労働省)と日本歯科医師会がタッグを組み、平成元年にスタートした「8020運動」をご存じの方は多いだろう。文字通り、80歳で20本以上自分の歯を保ち、堅い食品も自分の歯で噛んで食べられることを推進する取り組みである。スタート時は80歳で20本残っている高齢者は1割程度だったが、厚生労働省が2016年に行った「歯科疾患実態調査」では達成者が51.2%と半数を超え、最も成功した国民運動ともいわれている。

自分の歯を失わないために知っておくべき重要なポイントについて、大月氏がわかりやすく説明した。

「歯を失うきっかけを調査しましたところ、歯周病が約4割、むし歯(う蝕)が3割、破折が2割という結果がでました(公益財団法人8020推進財団「2018年第2回永久歯の抜歯原因調査」)。40歳以上の7割が歯周病をかかえているというデータ(2016年の厚生労働省「歯科疾患実態調査」)もあります。歯周病予防がオーラルフレイル対策の第1歩であり、100年ヘルスの第1歩と考えています。ただ歯周病は、糖尿病や高血圧症といった生活習慣病と同様、自覚症状がないことから、サイレント・ディジーズと呼ばれ、放っておくと重症化につながります。歯周病には歯肉炎と歯周炎があり、どちらも歯にこびりついた細菌のかたまりであるプラーク(歯垢)が原因です。歯肉炎は歯ぐきだけが腫れる症状で、こちらは歯科医院で歯科医師や歯科衛生士に正しい歯みがきの仕方を教わり、プラークをハブラシでしっかり落とすことで完治します。厄介なのは歯周炎です。歯を支えるセメント質や接合組織だけではなく、歯を支える骨までも溶けてしまい、最後は歯が抜け落ちてしまいます。歯周炎は治療をして完治した後も元の歯肉の状態に戻ることはありませんので注意が必要です」

歯周病は早め早めに対応が必要なため、歯科医院での健診が重要とのこと。

大月氏は9項目の歯周病セルフチェックリストを使い、会場・オンラインの参加者の歯や歯ぐきの状態をチェック。宮崎氏が「歯ぐきのやせが気になる」と自己診断すると、大月氏は「一つでもあてはまる項目があれば、大事に至る前に、かかりつけの歯科医院に相談するといいですね」と早めに、そして定期的な受診を提案。また、チェック項目が多い人には歯周病の専門医などでの受診を推奨した。

宮崎氏もセルフチェックリストで自己診断。

日本臨床歯周病学会HPより

「どのぐらいの頻度で歯科を受診するといいですか」と宮崎氏。

大月氏は、「最低年に2回。3か月に1回を目安にメンテナンスのために歯科医院に行き、受診していただくことが一番大事です。治療も日進月歩で進んでいて、歯周組織再生療法や外科的治療によって、以前は失われた歯も残せるようになりました。また、セルフケアではハブラシを正しく使った歯みがきが最も重要で、ハブラシだけではとれないプラークの除去には、デンタルフロス或いは、歯間ブラシに加え、洗口液や液体ハミガキの併用も効果的です。セルフケアと歯科医師や歯科衛生士の力によって失わずに残せる歯も以前に比べて増えてきました。歯周病は全身疾患と関わりがあることがわかっています。“たかが歯周病されど歯周病”。今回のシンポジウムを機に、歯周病と真剣に向き合って一緒に考えていただければうれしいですね」と回答した。

また、自宅でできるオーラルケアについて、一般財団法人 サンスター財団 歯科衛生士の塚原莉奈さんによる模型を用いたブラッシング講座も行われた。

ブラッシングの方法を紹介する歯科衛生士の塚原莉奈さん。

口腔機能を維持することでフレイルを食い止める

平野浩彦氏(東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長 医学博士 歯科医師)
1990年日本大学松戸歯学部卒。東京都老人医療センター主事・医長を経て、2009年に東京都健康長寿医療センター研究所専門副部長、2020年に現職に就任。臨床と同時に、研究部長として口腔保健と栄養を研究され、オーラルフレイルの第一人者として、研究結果に基づく講演も多数行っている。

自分の歯を残すことに加え、もう一つ重要なオーラルフレイル対策が、食べる、話す、呼吸するといった口腔機能の維持である。平野氏は口腔機能の低下によるリスクについて語った。

「体が疲れてすぐに休んでしまうと、それが体力の低下へつながり、ますます疲労してしまうという負の連鎖があります。これは身体だけではなくお口の中でも起こっています。堅い食品をよく噛めなくなると柔らかい食品ばかりを選んで食べるようになり、食べる機能が低下し、あまり堅くないものまで食べられなくなります。例えば風邪で数日間寝込んで食欲が落ちると、食べる機能が衰え、栄養が摂取できずふたたび寝込んでしまうという、悪いスパイラルが起こり、口腔機能の低下が身体の機能低下となっていきます。負の連鎖は、咀嚼力や舌圧の低下、滑舌の衰え、食べこぼし・むせなど、ほんの些細なことから始まり放っておくと大変なことになっていきます。要介護になると元の状態に戻すのは本当に困難ですが、フレイルの段階なら対策を講じることで機能を元に戻すことができます。40代以上の方は、自分ごととして対策を考えていただきたいです」

対策として、平野氏は“噛む力”と“飲み込む力”を保つことの重要性をあげる。

「食べ物を噛む時には、お口を閉じる際に使う『側頭筋』と、堅い食品を噛み砕く時に使う『咬筋』という筋肉が働きます。この2つの筋肉を動かすトレーニングは効果的です。また筋肉のかたまりである舌の動きも重要です。舌は、食べる行為において、食べ物を飲み込みやすくまとめる、喉に送る、さらに飲み込む時の力こぶにもなります。舌が衰えると、食道ではなく気管に食べたものが落ちて最悪の場合、誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こします。以前は脳梗塞など大きな病気で亡くなられる高齢者が多かったのですが、最近は入退院を繰り返すうちに体力が落ち、最後は口腔機能が衰弱し食べることができなくなり誤嚥性肺炎で亡くなるケースが増えています。また、孤食や引きこもりによって社会とのつながりを断たれることも口腔機能の低下につながるので、友達とおしゃべりや食事を楽しむソーシャルなコミュニケーションも大切です。寿命が延伸した分、早い段階から口腔機能を維持し、こうした肺炎、社会的孤立、要介護のすべての入り口ともいえるオーラルフレイル対策を行うことが必要です」

さらに現在ではスマートフォンのアプリを使った口腔機能対策も浸透しつつある。サンスターグループの無料スマートフォンアプリ「毎日パタカラ」は、オーラルフレイルの予防に役立つといわれるパタカラ体操を活用したセルフチェックとトレーニングを収録したアプリだ。

スマートフォンの通話用マイクに向かって「パ」、「タ」、「カ」の音を連続して発音することで、お口や舌の動きを確認できる点が特徴。「パ」の発音は唇まわりの筋肉、「タ」の発音は舌の筋肉、「カ」の発音は食べ物を食道に送る筋肉の働きをそれぞれチェックできるようになっている。

タレント・女優
宮崎美子氏
熊本大学在学中に芸能界入りしCMモデルとして活躍。1980年にはTBSテレビドラマ「元気です!」で主演し、女優として本格的デビュー。2000年に出演した映画「雨あがる」で第43回ブルーリボン賞 助演女優賞、第24回日本アカデミー賞 優秀主演女優賞を受賞。また知性派タレントとしてクイズ番組や雑学バラエティ番組でも活躍。

宮崎氏が実際にアプリを使ってお口の元気度をチェックした。

「自分のお口の衰えはなかなかわかりませんから、スマホアプリで簡単にチェックやトレーニングができ、毎日楽しく続けられるのかもしれませんね。今回の発音チェックでは『良好』判定がでましたが、『とても良好』という判定もあるそうなので明日から最高の判定を目指したいと思います」と、オーラルフレイル予防としての利便性や効果を語った。

はじまったオーラルフレイル対策の取り組み

小山茂幸氏(日本歯科医師会常務理事 山口県歯科医師会会長 歯科医師)
1985年に広島大学歯学部卒。同大学医局に勤務した後、1991年、山口県周南市にこやま歯科医院を開業。2003年より山口県歯科医師会理事を務め、2015年に山口県歯科医師会会長に就任(現在4期目)。2016年からは日本歯科医師会 常務理事に就任。歯と口の健康に関する講演も多数行っている。

オーラルフレイルの認知度は徐々に高まっているが、山口県周南市にある須々万(すすま)地区では、無歯科医地区になったことをきっかけに、通いの場で参加者が主体となって口腔体操を実施している。山口県歯科医師会では、県と⺠間事業者が連携した「健口スマイル推進事業」を展開している。山口県民の“歯と口の機能低下の予防・改善”を促進すべく、公益社団法人山口県歯科医師会の会長としてこの事業の実現に動いたのが、小山氏である。

「周南市では早くから高齢者が集まる場で歯科の取り組みを行ってきました。さらに無歯科医となった須々万地区において、オーラルフレイル対策ができればと口腔体操の取り組みを始めました。参加者が主体的に口腔機能維持を継続できるように、まずはお口を大きく動かすことのできる口腔体操『あいうべ体操』、『かみかみ百歳体操』、『パタカラ体操』をDVDに収録し配布をしました。みなさんの集まる場で計12回体操を行っただけではなく、毎日地区の有線放送でも流し、家で行ってもらうようにお願いをしました。用具として、嚥下(えんげ)機能向上のため舌の筋力を強化する『ぺこぱんだ』なども配布しましたが、なるべく長く続けてもらえるように、口腔カードをつくり、毎日チェックすることで、プレゼントを交換することなども取り入れ、モチベーションアップにつなげました。一人ではなくみんなで取り組むこと、短い時間で簡単に楽しくできること、家庭で自分たちだけでもできることがオーラルフレイル対策を継続して実践できるポイントとなります」

オーラルフレイル対策の国民運動を目指す

このシンポジウムを通じ、宮崎氏も歯と口の健康に対する意識の変化を実感したという。

「オーラルフレイルの意味や対策の内容を初めて知りました。これまでは仕事柄、歯並びやホワイトニングに気を遣っていましたが、自分の歯で、現状の機能をどうすれば保てるかを考えるいい機会となりました。身体の健康維持はみなさん日々行っていると思いますが、自分を含め、お口の健康にはまだまだ意識が足りていないかなと感じました。これからみなさんと一緒に頑張っていきたいですね」

会場には宮崎氏のコメントにうなずく人も多く見受けられた。

今回のシンポジウムは、登壇者同士のトークの掛け合いだけではなく、クイズやオーラルケアのデモンストレーションなど多彩な内容。会場・オンライン参加者と一緒にオーラルフレイル対策の重要性を学ぶ貴重な機会となった。

この6月には「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」が閣議決定され、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討がようやく始まることとなり、歯と口の健康に対する関心も大きく向上した。

成功した8020運動のように、口腔機能の面を基軸にしたオーラルフレイル対策が国民運動になる日もそう遠くはないだろう。

サンスターhttps://jp.sunstar.com/oral-frail/

取材・文/安藤政弘

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