中国や台湾、香港で、朝食にお粥を出すレストランはよくある。いわば彼の地において、お粥は朝食の定番メニューなのである。ところが、日本ではどうだろう? いまなお、“病人食”というイメージが強いのではないだろうか?
なぜ日本では病気になったときにお粥を食べるのか考えてみよう。当然のことながら、とても消化がよく、胃や腸に負担をかけないからである。だからこそ、病気で消化器官が弱っているときには、うってつけな食べ物なのだ。
「だとすれば、そんなお粥のメリットを日常的に活用しない手はないだろう」と説くのは、曹洞宗の僧侶であり、庭園デザイナーとして国内外から高い評価を得ている枡野俊明(ますの・しゅんみょう)さん。
枡野さんは、著書『禅と食』(小学館文庫)のなかで、現代人の食生活は、高カロリー、高たんぱく、高脂肪に偏りがちであり、だからこそ、ときに消化器官にやさしいお粥をメニューに取り入れ、負担を軽減すべきだと説く。
とはいえ、修行中の禅僧のように朝食をすべてお粥にするのは難しく、あまり現実的ではない。でも、週に一度か二度、朝食にお粥を食べる習慣をつけるだけであれば、なんとかなるのではないだろうか?とは枡野さんからの提案だ。
「お粥をつくるポイントはひとつ。米から炊くということです。一般には、「ごはんが残っているからお粥(雑炊)にでも……」ということが多いようですが、残りごはんを使うのと米から炊くのとでは、できばえがまったく違います」(『禅と食』より)
ちなみに修行中の朝粥のつけ合わせは、胡麻塩と香菜(漬け物)を少々なのだという。シンプルすぎるだけに最初は物足りなさを感じるものの、慣れてくるとちょうどいいのだそうだ。すった胡麻の芳しい香りがふわっと立って、贅沢にさえ感じるというのである。
またお粥を入れる器が木製の漆塗りであれば、胡麻の香りとともに漆の香りも楽しめる。シンプルな食の極みでありながら、その味わいは深いのだ。
とはいえ修行をしているわけではない我々は、ごま塩と漬け物だけではなく、梅干しやしらす、佃煮、魚のフレークなど、好みの副菜を添えるといいという。また、小豆を入れて小豆粥にしたり、さつまいもと一緒に炊いて芋粥にするのも悪くない。
炊きたてのお粥から始める朝は、気分を爽やかにしてくれるもの。ぜひ明日の朝から、お粥を炊いてみてはいかがだろうか? 前出の『禅と食』には、白がゆや小豆粥のレシピも写真つきで掲載されているので、ぜひ参考にされることをおすすめする。
文/印南敦史
【参考図書】
『禅と食 「生きる」を整える』(小学館文庫)
著/枡野俊明
本体580円+税
食事をつくること、食べること――一回一回の食事を丁寧に大切にすることは、一瞬一瞬の人生を心をつくして生きることに通じます。禅的シンプル生活のはじめの一歩は「食事」から始まります。
料理をつくる心構えから、食事をする心と所作、シンプルな食習慣の秘訣まで、数々のベストセラーを輩出する枡野俊明氏の教えが一冊に。簡素で清々しく、美しい生き方を提案します。
精進料理のレシピつきで、まさに今日から禅的食生活を実践できます。
