冷泉家1(冷泉家)重文 冷泉家住宅
平安貴族の邸宅の雰囲気を今に伝える冷泉家の邸宅。格子状の壁に見えるのが「立蔀」(たてじとみ)と呼ばれる目隠し(画像提供/京都古文化保存協会)。


京都では毎年春と秋に、通常は非公開の国宝や重要文化財を含む仏像や建築、絵画、庭園などが「特別公開」される。この催しは、「京都非公開文化財特別公開」と呼ばれ、この秋で通算68回を数える。今回は市内の20社寺などで開催されるので、京都を訪れた際はぜひ、普段見ることのできない「伝統の美」
の数々に触れてみてはいかがだろう。

和歌の伝統をいまに伝える公家

秋の「京都非公開文化財特別公開」で見学できる文化財のひとつに、冷泉家の邸宅がある。
冷泉家は、平安時代から800年余りの歴史を誇るお公家さんで、戦前は貴族の位だった。簡単に冷泉家の歴史を振り返っておこう。

平安時代の中ごろ、藤原道長(ふじわらのみちなが 966~1027)という大貴族がいた。3人の娘を大事に育て、それぞれ天皇の后(正妻)につかせた。それよって、3代の天皇の外祖父となった道長は、こんな歌を詠んでいる。
<この世をば わが世とぞ思ふ望月の 欠けたることも なしと思へば>(この世は自分のためにある、満月のように欠けたものは何もないのだ)

当時、道長が絶大な権力を誇っていたことがうかがえる和歌である。

その道長の6男として生まれた長家(ながいえ 1005~64)が、冷泉家の遠祖にあたる。藤原一族はいくつかの系統に分かれ、長家は御子左家(みこひだりけ)と呼ばれた。  

長家から3代目、つまり曾孫(ひまご)として生まれたのが俊成(としなり 1114~1204)である。和歌に詳しい人は「しゅんぜい」といったほうが親しみやすいかもしれない。彼は和歌の歴史において一時代を画し、天皇の命によって編(あ)まれる勅撰(ちょくせん)和歌集『千載和歌集』(ぜんざいわかしゅう)の撰者となった。もちろん、自らも多くの名歌を残している。

さらに俊成の子・定家(さだいえ、ていか)は、日本人なら誰もが知っている『新古今和歌集』を編んだ。これも勅撰和歌集である。

勅撰和歌集はいつ命令が下るかわからない。そこで、日ごろから歌集を集めておく。当時の歌集は、ほとんどが私家版、つまり自費出版。藤原家では貴族の歌集を借りてきてひたすら筆写し、膨大な写本が蔵の御文庫(おぶんこ)に秘蔵されることになった。

冷泉家が御子左家から独立したのは定家の孫・為相(ためすけ)の時代で、この為相が今日の冷泉家の初代となる。

為相が冷泉家を名乗ったとき、藤原家に伝わる和歌の写本をほとんど受け継いだ。こうして日本文化の背骨ともいえる和歌の伝統が、冷泉家により今日まで引き継がれてきたのである。現当主は25代為人(ためひと)さん。夫人の貴実子さんとともに、冷泉流歌道を多くのお弟子さんに教えている。

唐草文様の襖

現在の冷泉家は、烏丸今出川(からすまいまでがわ)から東へ少しいったところにある。同志社大学に隣接し、南側は京都御苑である。平安京が造られた時、貴族の屋敷は京中に点在していた。豊臣秀吉は、それらの屋敷をいまの京都御苑の地に集め公家町とした。

明治になると、貴族となったほとんどの公家は天皇とともに東京へ移転。その後、公家町はすたれてしまった。そうした中、公家町から現在の今出川通り1本隔てた地にあった冷泉家は、そのまま京都に残った。それが幸いし、屋敷はもちろんのこと、御文庫に納められていた膨大な歌の資料を守ることができたのである。

現在の屋敷は、江戸時代初期の寛政2年(1790)の再建だが、かつての貴族邸宅の雰囲気をそのまま残している。
表門は今出川通りに面して立つ。門の屋根には2匹の亀がいる。一方は口を開け、もう一方は閉じている。仏像の仁王様や神社の狛犬と同様、阿・吽(あ・うん)の様式である。

門をくぐると、玄関前は一面純白の白川砂。向って左手の内玄関(ないげんかん)の前には、玄関を直視されるのを避けるために、細い木を縦横に組んで格子にして裏面に板を張った「立蔀」(たてじとみ)が立つ。ちなみに、一般の住宅で立蔀を見かけることはほとんどないが、はるか南の沖縄の住宅では、同じように玄関の前に「ヒンプン」という壁を立てる。魔除けの役割があり、中国語の屏風(ピンフン)の転訛といわれている。

座敷は、使者の間・中の間・上の間が東西に並び、上の間に床が設えてある。座敷の南側に庭が広がり、明るい光が室内に差し込む。京都の町屋に見る薄暗い雰囲気は、ここにはない。
座敷の襖は牡丹の唐草文様で統一されている。その版木(はんぎ)は、いまも京都の老舗唐紙店『唐長』(からちょう)に保存されている。襖ひとつにも、伝統が脈々と受け継がれているのだ。

現在、冷泉家は数多くの文化財を所蔵しており、国宝は藤原定家の日記『明月記』(めいげつき)など5件、重要文化財は50件近くにものぼる。今回、その一部が公開されるので、和歌の伝統と歴史にふれてみてはいかがだろう。

冷泉家2
冷泉家の12か月の暮らしぶりが詳しく紹介されている『京都 旧家に学ぶ、知恵としきたり』(小学館刊)。定価2000円(税別)。

 

冷泉家
住所/京都市上京区今出川通烏丸東入ル玄武町599
公開期間/10月31日(土)~11月3日(火)
公開時間/9:00~16:00(受付終了)
拝観料/800円
URL/http://reizeike.jp/
問い合わせ先/075-754-0120(京都古文化保存協会)

 

文/田中昭三
編集者を経てフリーに。日本の伝統文化の取材・執筆にあたる。『サライの「日本庭園」完全ガイド』(小学館)、『入江泰吉と歩く大和路仏像巡礼』(ウエッジ)、『江戸東京の庭園散歩』(JTBパブリッシング)ほか。

 

 

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