映画のような百年駅舎の懐かしき情景!長(おさ)駅 (北条鉄道)【訪ねて行きたい鉄道駅舎 第26回】

文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)

兵庫県の播但平野を走る北条鉄道を訪ねた。この路線はJR加古川線の栗生(あお)駅から北条町駅を結ぶ13.6㎞の小鉄道で、その昔は国鉄北条線と呼ばれていた。

さかのぼれば大正時代に開通した私鉄の播但鉄道に始まる路線で、今も大正時代の駅舎が残るローカル風情豊かな鉄道となっている。

今回は偶然、この北条鉄道の線路をクルマで横断したことから始まった。姫路に向かって加西市の郊外を走っていたとき、とある踏切を通過すると可愛らしい駅が視界に入ったのだ。思わずその集落に入っていくと、なんとも古びた駅舎が現れた。

カワラ屋根に漆喰塗りの建物はかなりくたびれているが、横には公衆トイレ、駅頭に電話ボックスを従えた小さいながらも停車場の構え。駅名は『長(おさ)』という。

待合室には使い込まれたベンチに手編み風のマットがおかれ、板ガラスに木製サッシの窓という嬉しくなるような駅舎は、軒に張られた『建物財産票』では大正4年2月と表示されていた。ここは大正時代から続く、100年モノの駅舎なのだ。

そんな旅行者の感動など関係なさそうに、爺さまが貧乏ゆすりをしながら列車を待っていた。駅構内には古いホームが残り、地元の人達が植木の手入れをしている。なにもかも、絵に描きたくなるような駅の情景があった。

しばらくすると駅舎から信号音がした。すると駅事務室の扉が開き、赤線入りの鉄道帽をかぶった駅長が現れた。なんと、この駅は有人駅だったのだ。

やがて線路の彼方から紫色のキハがゆっくりと近づいてきた。北条鉄道フラワ2000形ディーゼル気動車だ。そして車体を揺らしながら長駅に停車、運転士は駅長と会話交わし、警笛を鳴らすとまたゆっくりと発進していった。

列車が小さくなるまで敬礼を続ける駅長。まことによき風景、この一連の流れはまるで映画を見ているようだった。

駅長さんに話を聞くと、彼は北条鉄道からボランティア駅長に任命されて毎週末に駅に勤務するという。「もともと鉄道が好きで北条鉄道に通っているうちに声をかけられて」駅長に就任したのだとか。

そしてこの長駅は、二人のボランティア駅長で守っているという。北条鉄道は各駅にこのような駅長がいて、みんなで鉄道を支えているという。不覚ながら知らなかった。

そんな北条鉄道のなかでも、駅舎がほとんどオリジナルなのはこの長駅ぐらいと聞いた。偶然そんな駅舎にぶち当たるとはなんて運がいいんだろう。

駅事務室で話を聞いているうちに先ほどのキハが戻ってきた。赤緑の手旗を持ってふたたびホームで出迎える駅長、こんどは笑顔が可愛い女性運転士だった。次は列車で来ようと思った。

【長(おさ)駅 (北条鉄道)】
■ホーム:1面1線
■所在地:兵庫県加西市西長町
■駅開業:1915年(大正4年)3月3日
■アクセス:加古川駅からJR加古川線で粟生駅で北条鉄道に乗り換え、約50分

文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。