『職人尽歌合(しょくにんずくしうたあわせ)』より「傘張」/国立国会図書館蔵

『職人尽歌合(しょくにんずくしうたあわせ)』より「傘張」/国立国会図書館蔵

狂言『祐善(ゆうぜん)』のシテ(主役)は、その名も祐善という都の傘張り職人だ。

都の五条の小路に着いた僧が、突然の雨に庵で雨宿りをしている。そこに祐善の幽霊が現れて、この庵が生前の自分の住まいで、傘張りをしていたと明かす。

そして、この祐善、日本一下手な傘張りだったというのだ。

「ひと雨あれば骨は骨、紙や紙」、雨の日に一度使っただけ壊れてしまう傘。そのため誰も買ってくれなくなり、祐善は世の人に腹を立てておかしくなり、挙句殺されてしまった……。

日本の傘の歴史は古く、朝鮮半島の百済(くだら)から仏教の法具として552年に伝わったとされる。その後、骨となる竹細工の技術、製紙技術が進歩し、開閉する仕掛けなども発明され日本独自の発展を遂げていった。とくに室町時代、厚手の和紙に油を塗って防水性が高まると、多くの人に使われるようになったらしい。

傘の製造は分業制で、骨は骨師、骨をまとめて繋ぐ轆轤(ろくろ)という部分は木地挽(きじびき)の職人、柄と轆轤、開閉するはじきを組み立てる繰込屋(くりこみや)、骨を糸で繋ぐ繋屋の手を経て、祐善のような傘張り職人が仕上げていたそうだ。

この狂言は、能仕立てで前半と後半に分かれているのが特徴で、後半、祐善は無念の想いを謡い舞い、僧の弔いで成仏を遂げる。

全編、傘の縁語が散りばめられ、僧も出家前は傘張で、若狭の轆轤谷から都の笠取明神へ向かっていると名乗る。

暴風雨の去った後、道に転がる傘の残骸は今も昔も変わらぬ光景だろう。「鼻引(はなひき)」という不気味な表情の狂言面で登場する祐善の姿は、どこか無残に壊れた傘の哀れさに重なるのである。

写真・文/岡田彩佑実
『サライ』で「歌舞伎」、「文楽」、「能・狂言」など伝統芸能を担当。

※本記事は「まいにちサライ」2013年10月16日掲載分を転載したものです。

 

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