ルイ・アームストロング ジャズの父、そしてジャズ・ヴォーカルの父【ジャズ・ヴォーカル・コレクション05】

『JAZZ VOCAL COLLECTION』(ジャズ・ヴォーカル・コレクション)第5号「ルイ・アームストロング」(監修:後藤雅洋、サライ責任編集、小学館刊)

『JAZZ VOCAL COLLECTION』(ジャズ・ヴォーカル・コレクション)第5号「ルイ・アームストロング」(監修:後藤雅洋、サライ責任編集、小学館刊)

ジャズの父、そしてジャズ・ヴォーカルの父
文/後藤雅洋

サッチモの偉さはどこに
名前は知っていても、その実像の凄さがいまひとつ理解されていない超大物ジャズマンが、サッチモと愛称されたルイ・アームストロングではないでしょうか。ちなみに「サッチモ」というあだ名の由来ですが、satchel mouth(かばんのような大口)、あるいはSuch a mouth!(なんて口だ!)など諸説ありますが、どちらもありそう。コルネット(トランペットの一種)を吹き、歌も歌い、そして多くの映画に登場した人気者で、ジャズの代名詞的存在でありながら、「どこが偉いのか?」ということになると、大きな目玉をくりくりさせる彼の愛嬌がかえって徒になって、さほど理解されているようには思えないのです。

もっともそれは私自身の体験による先入観かもしれません。ジャズを本格的に聴き始めるはるか以前からそのキャッチーなキャラクターも手伝って、なんとなくではありますがサッチモのことは知っていました。そして彼の親しみに満ちた笑顔を「まさにジャズだなあ」と思ったものでした。しかしその印象も、のちにサッチモとは対照的でいかにも神経質そうな名トランペッター、マイルス・デイヴィスや、激情的テナー・サックス奏者、ジョン・コルトレーンなどの「モダン・ジャズマンたち」を知るようになってからは、若干影が薄くなってしまったことは否めないのです。ひとことで言ってしまえば、「昔のスター」というイメージでしょうか。

そうした「思い込み」が大きく変わってきたのは、本気でジャズにのめり込むようになってからでした。ジャズの紹介本などを書くようになり、「ジャズの魅力」を初心者の方にもわかりやすく解説するようになって、ようやく「ジャズの原点」にはルイ・アームストロングがいるのだということが実感としてわかってきたのです。

「ジャズの魅力・原点」をひとことで言うと、「個性の発現」ということになるでしょう。これは器楽演奏でもヴォーカルでも同じです。このジャズの魅力の原点を探っていくとサッチモが現れるのですから、いかにこの人の存在が大きいかおわかりかと思います。とりわけ「ジャズ・ヴォーカル」の始まりは何だろうと歴史をひもとくと、じつに面白いエピソードが登場するのですね。

1926年のことです。ルイ・アームストロングが「ヒービー・ジービーズ」という曲をレコーディングしているとき、楽譜を落としてしまいアドリブで「ウヴィ・ウヴィ~」と歌詞とは関係なく歌い出し、それがスキャットの始まりとされているのですから、まさにサッチモはジャズ・ヴォーカルの元祖なのです。おそらく落としたというのは「言い訳」で、サッチモは最初からこうした面白い試みをやる気だったのでしょう。というのも、彼にはもともとそういう自由なアイデアを好む傾向があるのですね。そしてその発想法は「ジャズ」という音楽の発端、根源とも密接に繫がっているのです。