監修/萩原さちこ 取材・文/平野鞠

城の基礎知識や、名将達の戦略について掘り下げていくこの連載。前回の記事、「信玄は城を築かなかったはウソ!武田信玄が城に仕掛けた難攻不落の工夫とは」では、信玄が城を持たなかったと誤解されやすい理由、そして、どんな城を築き、成功していったのかをご紹介しました。

今回のテーマは毛利元就です。できるだけ味方の犠牲を払わず戦に勝利することを信条とした元就は、郡山合戦の大勝利をきっかけに大きく飛躍します。そんな元就の戦略や、その舞台となった吉田郡山城について、ご紹介しましょう。

■3倍以上の兵に勝利した籠城戦

毛利元就がその名を知らしめ、大きく飛躍するきっかけとなったのが郡山合戦。この戦いは8000の兵で籠城した毛利軍が、尼子久幸を総大将とする3万もの大軍に勝利を収めたというものです。

この時代、籠城は最終手段ではなく、勝つための一つの戦略といえるものでしたが、それでも大軍に長期間包囲され、ただひたすら籠っているだけでは勝ち目はありません。敵に兵糧の搬入ルートを遮断されてしまえば、いずれ餓死してしまうのです。

そこで頼みの綱になるのが「後詰め(ごづめ)」と呼ばれる援軍。籠城戦を行う場合、周辺の支城や同盟軍との連携が勝敗を大きく左右したのです。

この戦では、毛利軍の籠城後、援軍である大内方の1万の兵が尼子軍を挟み撃ちしたことが勝因となりました。城側にも城外側にも背を向けられなくなった尼子軍は、最終的に自滅するかのように総攻撃に転じたものの、久幸の討ち死という事態に陥ると、翌日撤退することとなったのです。

■元就の躍進とともに変貌を遂げた巨大山城

郡山合戦の舞台となったのは吉田郡山城(広島県安芸高田市)。標高390mの郡山に築かれた吉田郡山城は、最盛期には東西1km、南北0.8kmに広がり、総面積は、西側にある曲輪(城内に区画された平坦地)群を含めると約7万平方メートルにも達します。

巨大山城といえる吉田郡山城ですが、実は元就時代は本城と呼ばれる尾根上の一角にすぎませんでした。このスタイルはまさに”国人領主の城”の典型だったのです。

しかし、元就は躍進とともに城を山全体へと拡張。放射線状にのびる複数の尾根上に曲輪を並べて複雑に構成する”戦国大名の城”へと変貌させていったのです。

吉田郡山城は元就ゆかりの城として、今も人気が高い城の一つです。訪れれば、きっとそのスケールの大きさを実感できるでしょう。

※ 郡山城跡(こおりやまじょうあと) – 安芸高田市観光協会

次回も城に関するトピックをお届けします。詳しくはぜひ、『戦国大名の城を読む』をご覧ください。

取材・文/平野鞠
監修/萩原さちこ

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)
1976年、東京都生まれ。青山学院大学卒。小学2年生で城に魅せられる。 大学卒業後、出版社や制作会社などを経て現在はフリーの城郭ライター・編集者。 執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座、ガイドのほか、「城フェス」実行委員長もこなす。 おもな著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、 『お城へ行こう! 』(岩波ジュニア新書)、『今日から歩ける 超入門 山城へGO! 』(共著/学研パブリッシング)など。 公益財団法人日本城郭協会学術委員会学術委員。

【出典】
『戦国大名の城を読む』
(萩原さちこ・著、本体760円+税、SBクリエイティブ)
http://www.sbcr.jp/products/4797372359.html

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