監修/萩原さちこ 取材・文/平野鞠

城の基礎知識や、名将達の戦略について掘り下げていくこの連載。前回の記事「おいどんは清正公に負けた…西郷どんも実感した「熊本城」最強の理由とは」では、最強の軍事力を誇る熊本城の魅力をご紹介しました。

今回のテーマは「武田流築城術」です。城を築かなかったと誤解されがちな武田信玄ですが、実は優れた城を築いた戦国大名の代表格。武田氏の城の特徴をご紹介していきます。

■信玄が城を築かなかったと誤解される理由

信玄が残した言葉に「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 あだは敵なり」というものがあります。戦国武将きってのカリスマ性を持つ武田信玄は、何よりも人材を重んじた人物。家臣を適材適所に配置することで、それぞれが長所を発揮し、強固な信頼関係を築き上げることができたのです。

この人柄こそ「信玄は城を築かなかった」と誤解されやすい理由のひとつ。「人は城〜」の言葉も、信頼関係で結ばれた家臣がいれば、防衛のための城などなくても良いという意味に解釈されてしまうことが多いのです。

■武田流築城術の特徴「丸馬出」を使った戦法とは

そんな誤解とは正反対に、信玄は後に武田流築城術と分類されるほど特徴のある優れた城を築いています。

信玄は居城を建てることではなく、戦の最前線基地を構築することを重視していたため、次々に城を奪い、自分流に改修していきました。牧之島城(長野市)や大島城(長野県松川町)も信玄が略奪し、目的に応じてリフォームした城といってよいでしょう。そのように城づくりを進めていくことで独自の築城術が発達していったのです。

武田流築城術の最大の特徴に「丸馬出」があります。馬出(うまだし)とは虎口(こぐち、出入り口)にある出撃用の場所で、防御力を高めるよう土塁が盛られます。丸馬出は半円形になっており、同じく武田流築城術の設備であるブーメラン型の「三日月堀」と組み合わせて、つい立てのように虎口をガードすることができるのです。

丸馬出があることによって、半円の城内側に虎口が2カ所設けられるため、攻めこむ敵は左右に分散せざるを得ません。守り手としては、迎え撃つ敵の数が減るほど効率がよくなりますし、敵が一気に一方の虎口に攻め込んできた場合は、もう一方の虎口から一度城外に出て背後から敵を挟撃することもできるのです。

*  *  *

いかがでしたか。武田流築城術のお手本といわれる諏訪原城(静岡県島田市)は実物の丸馬出と三日月堀を見るのにおすすめの城。ぜひ訪ねてみてください。

次回も城に関するトピックをお届けします。詳しくはぜひ、『戦国大名の城を読む』をご覧ください。

取材・文/平野鞠
監修/萩原さちこ

萩原さちこ(はぎわら・さちこ)
1976年、東京都生まれ。青山学院大学卒。小学2年生で城に魅せられる。 大学卒業後、出版社や制作会社などを経て現在はフリーの城郭ライター・編集者。 執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座、ガイドのほか、「城フェス」実行委員長もこなす。 おもな著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、 『お城へ行こう! 』(岩波ジュニア新書)、『今日から歩ける 超入門 山城へGO! 』(共著/学研パブリッシング)など。 公益財団法人日本城郭協会学術委員会学術委員。

【出典】
『戦国大名の城を読む』
(萩原さちこ・著、本体760円+税、SBクリエイティブ)
http://www.sbcr.jp/products/4797372359.html

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