執拗なまでの細密な描写に唖然!ブリューゲルの最高傑作「バベルの塔」とボイマンス美術館所蔵の名品展

ピーテル・ブリューゲル1世《バベルの塔》〔1568年頃 油彩・板〕Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

旧約聖書の「創世記」に登場する「バベルの塔」の物語は、「世界中が同じ言葉を使って話をしていた頃、東の方から移動してきた人々がシンアルの地に平野を見つけた」というところから始まります。

そこに住み着いた彼らは、石の代わりにレンガを作り、漆喰の代わりにアスファルトを用いて「天まで届く塔のある町を建て、全地に散らされることのないようにしよう」としました。主は降ってきて、「彼らは一つの民で、一つの言葉を話しているからこのようなことを企てたのだ。ただちに彼らの言葉を混乱させ、言葉が聞き分けられぬようにしよう」と、全地の言葉を混乱(バラル)させ、彼らを全地に散らした――という物語です。

人間の驕りを正す神の業、と語り継がれているこの物語の情景については、多くの画家が描いていますが、ピーテル・ブリューゲル1世が描いた《バベルの塔》は、神の怒りというよりも、蟻のように小さな人々が夢を実現しようと挑戦する姿を描いていてひときわユニークです。

ブリューゲル1世は、バベルの塔を題材に、少なくとも3点の作品を描いたといわれますが、現存するのはウィーン美術史美術館と、オランダのロッテルダムにあるボイマンス美術館とに所蔵されている2点のみです。

このうちボイマンス美術館所蔵でブリューゲルの最高傑作ともいわれる《バベルの塔》が、いま24年ぶりに来日し、東京・上野の東京都美術館で公開されています(~2017年7月2日まで)。

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ボイマンス美術館の《バベルの塔》には約1400人もの人物が描かれています。塔の建設に従事しているこれらの人々は米粒大の大きさで細かく描かれていますが、建設作業の細部を想像力を巡らせて描き、執拗なまでに細部にこだわった描写に圧倒されます。働く人々を積極的に描き、晩年には「農民のブリューゲル」と称された彼の意思が感じられる作品です。

本展では《バベルの塔》だけでなく、オランダ屈指の美術館であるボイマンス美術館を代表する、16世紀ネーデルラント美術の名品コレクションを紹介します。最近注目の著しいヒエロニムス・ボスの初来日の《放浪者(行商人)》、《聖クリストフォロス》ほか見応えのある作品が並びます。

ヒエロニムス・ボス《放浪者(行商人)》〔1500年頃 油彩・板〕 Museum BVB, Rotterdam, the Netherlands

本展の見どころを東京都美術館の学芸担当課長、山村仁志さんにうかがいました。

「本展の見どころは、ピーテル・ブリューゲルの奇跡のように美しい傑作《バベルの塔》、奇想の画家ヒエロニムス・ボスの世界に約25点しか存在しない貴重な油彩の中の2点、そしてモンスターの元祖とも言うべきボスの追随者とブリューゲルによる奇怪な銅版画など、数多く挙げることができます。

しかし私が一番見てほしいのは、この時代のネーデルラントで“信仰の美術から、人間の美術へ”と大きな価値の転換があったことです。

この時代の美術はいわゆる「宗教改革」の時代の美術です。初期ネーデルラントの貴重な木彫聖人像や聖画像をはじめ、15世紀末の後期ゴシックの優れた作品が多く出品されています。この敬虔な宗教的画題が、16世紀にどのようにして風景画そして風俗画など人間的主題へと変わっていったのか。その過程が展覧会全体で確認できると思います。

このプロセスを意識して見ると、ボスもブリューゲルも奇怪な版画の数々もまた新鮮な発見と驚きを持って見ることができると思います。

《バベルの塔》も主題は「創世記」から取ってはいますが、内容は壮大な風景画であると同時に、実に約1400人もの働く人間を描いた新しい絵画です。ブリューゲルの絵画は人間中心の絵画だと言っても過言ではありません。ぜひ前半部の宗教美術をしっかり見てから、後半の傑作《バベルの塔》をお楽しみください。」

本展は、大阪の国立国際美術館に巡回(7月18日~10月15日)されます。お楽しみに。

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
■会期:2017年4月18日(火)~7月2日(日)
■会場:東京都美術館 企画展示室
■住所:東京都台東区上野公園8-36
■アクセス:JR上野駅公園口より徒歩約7分、東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅より徒歩約10分、京成上野駅より徒歩約10分
■電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
■公式サイト:http://babel2017.jp
■開室時間:9時30分から17時30分まで、金曜日は20時まで(入室は閉室30分前まで)
■休室日:月曜日(ただし5月1日は開室)

取材・文/池田充枝