「不器用なほうが学者としては望ましい」(中根重一)【漱石と明治人のことば10】

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今年2017年は明治の文豪・夏目漱石の生誕150 年。漱石やその周辺、近代日本の出発点となる明治という時代を呼吸した人びとのことばを、一日一語、紹介していきます。

【今日のことば】

「今ごろの若い者は遊ぶことばかりじょうずでなんにも役に立たないが、ああいうふうに不器用なほうが学者としては望ましい」--中根重一

なんでも器用にこなして遊びもスマートで上手な人というのは、見るからにカッコイイし、異性にもモテるかもしれない。しかし、それとは対照的に無骨で不器用なくらいの人間のほうが、地道な勉強の積み重ねを必要とする学者の世界ではかえって有望だと、貴族院書記官長の中根重一は説くのである。説き聞かせる相手は、自身の長女の鏡子、のちの夏目漱石夫人である。

漱石と鏡子はこの1週間ほど前、見合いした。互いに好もしい印象を抱き、この日は中根の家で再び漱石を呼んで歌留多遊びなどをした。漱石は次々と鏡子やその妹たちに札をもっていかれ、冴えない姿を見せるが、そんな漱石をむしろ好もしく見るあたり、中根重一の人物鑑識眼はなかなかのものといっていい。
実際、学者ばかりでなく、職人的な仕事の世界でも、案外、ちょっと不器用なもののほうが粘り強く打ち込み、のちのち大成するという話はよく耳にする。

文/矢島裕紀彦
1957年東京生まれ。ノンフィクション作家。文学、スポーツなど様々のジャンルで人間の足跡を追う。著書に『心を癒す漱石の手紙』(小学館文庫)『漱石「こころ」の言葉』(文春新書)『文士の逸品』(文藝春秋)『ウイスキー粋人列伝』(文春新書)『夏目漱石 100の言葉』(監修/宝島社)などがある。2016年には、『サライ.jp』で夏目漱石の日々の事跡を描く「日めくり漱石」を年間連載した。

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