若手醸造家が明かす!ワインの銘醸地「ボルドー」の知られざる先駆的取り組み

世界的なワインの銘醸地として知られる、フランスのボルドー地方。そのボルドーワインが今どのように進化しているのかについて、日仏のキーパーソンが語り合うパネルディスカッションが、去る9月12日に東京都内で開催されました。

参加者は、ボルドーから招かれた新世代の生産者や醸造コンサルタント、そして日本からは昨年マスター・オブ・ワインを取得した大橋健一さん、山梨にあるワイナリー中央葡萄酒の栽培醸造責任者・三澤彩奈さんです。

パネリスト全員_s

ワインを造る際には、じつは多くの資源を使用します。醸造用のタンクや樽を洗うためには大量の水を使いますし、発酵の際にはカーヴで電気も消費します。車や船でのワインの輸送にもエネルギーが必要です。

現在ボルドーには、ボルドーワイン委員会(CIVB)が主導する形で、水や電力などのエネルギー消費、農薬使用の削減などに集団で取り組む「環境管理システム」(SME)があるとのこと。そしてSMEは、2020年までに、20%の温室効果ガスの排出量削減、20%のエネルギー使用量の節約、20%の再生可能エネルギーの創出、20%の水の節約を目標にしているといいます。

さらにSMEは、ぶどう畑のなかの生物多様性を維持するために、化学農薬の使用を控える努力もしているとのこと。現在はドローン(遠隔操縦の小型無人ヘリコプター)を使って畑を空撮し、ぶどうの樹勢や生命力を調べているのだそうです。そして「ここはぶどうが病気にかかりやすい」という場所を事前に把握し、適切に対処することで、農薬使用の抑制に繋げているというのです。

パネリストのなかに、SMEのメンバーである「シャトー・ラフォン・ロシェ」の栽培責任者、アナイス・マイエさんがいました。まだ29歳の女性ながら、このシャトーのぶどう栽培責任者を務めているアナイスさん。近年、フランスでも女性栽培醸造家は増加傾向にありますが、それでもまだ少数派といえる存在です。

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「私はワイン造りとはまったく関係のない家で育ちました。でも、両親ともに大変なワイン愛好家だったんです。高校時代に、将来どうしようかと考えた時、何か農業にかかわる仕事をしてみたいと思いました。友人にワイン造りに携わっている人がいたので、今の仕事に興味を持ちました。この選択をして、心からよかったと思っています」

ボルドー大学で農業や醸造学を勉強し、2012年からシャトー・ラフォン・ロシェで働き始めたアナイスさんは、SMEの活動について、次のように語りました。

「ボルドーはフランスのAOC(※)ワイン栽培面積の4分の1を占める、非常に大きなワイン産地です。だからこそ持続可能な活動により、環境問題をリードしていく責任があると思います。私たちのシャトーでは、醗酵室に自然光を取り入れて電力の消費を抑えています。そしてワインボトルや醸造の際に使う樽も、リサイクル可能な循環型へと転換しています」

※原産地呼称統制。フランスのワインやチーズ、バターなどの農業製品で、一定の条件を満たしたものにのみ与えられる品質保証の認証。

シャトー・ラフォン・ロシェ外観。

シャトー・ラフォン・ロシェ外観。

さらに、このシャトー・ラフォン・ロシェでは、6年前からぶどう栽培にビオ、あるいはビオディナミ農法を取り入れたのだそうです。じつはこのシャトーのオーナーは、ボルドーのスター生産者、ポンテ・カネと同じテスロン家です。

約10年前、ポンテ・カネは、ボルドーでいち早くビオディナミ農法に取り組んだことで話題をさらいました。ビオディナミとは、化学農薬や化学肥料を使わず、月や星などの天体の動きを農作業に取り入れながら、畑や土壌全体をひとつの有機体として捉える農法です。

当時はまだボルドーではビオディナミを行う生産者は皆無で、周囲からは奇異の目で見られることもありました。

しかしそういった取り組みがワインの味わいを向上させ、ポンテ・カネの格付けは5級ながら、いまでは1級のシャトーにひけを取らない価格でワインが取引されています。その成果を見て、シャトー・ラトゥール、シャトー・マルゴーといった1級のシャトーもビオディナミを取り入れ始めるようになりました。

「私たちのシャトーも今年からすべてビオ栽培になりました。段階的にビオディナミにも取り組んでいます。農薬を使わないので、ぶどうに害虫がこないよう畑にフェロモンを撒くことでコントロールしています。さらに花粉を媒介するミツバチの数を数えて、畑が生物多様性の状態になっているかをモニタリングしています」

このパネルディスカッションに参加した日本人のワイン関係者も、ボルドー全体のこの取り組みに感心していました。

中央葡萄酒の栽培醸造家・三澤さんは、「ビオでぶどうを栽培する、というと簡単なように聞こえますが、実際にやってみるととても大変です。想像を絶するほどの手間がかかるのです。ボルドー全体がサポートすることは、生産者への手助けになります」と語りました。

またマスター・オブ・ワインの資格を持つ大橋さんは、「ボルドーの特徴は、オーナーがシャトーを所有していることです。そのオーナーたちは、成果が期待できないことに関しては投資をしません。現在、多くのボルドーのシャトーがそのSMEに参加し、ぶどう畑の45%が有機農法や減農薬農法などの認証を受けているという事実は、そういった流れがまちがいなく将来的に価値があるということを表しています」と語ります。

フランスでは個々の生産者が環境などに配慮したワイン造りをしているケースはありますが、委員会が主導しておこなうというのは非常に先駆的といえます。資金力と組織力のあるボルドーが、エコロジーとテクノロジーを融合させて、環境に配慮していく。この形はフランスの他の産地に限らず、世界のワイン産地の今後の手本になるでしょう。

取材・文/鳥海美奈子