【口福みやぎ丸 第2回】松島の穴子――風光明媚な湾からあがるマアナゴは旨み抜群

宮城県は、海の幸の宝庫。複雑な段丘が、海岸線に大小の豊かな湾を形成する。船を走らせれば、世界有数の漁場である三陸沖は目の前だ。この豊饒の地に旬の食材と人を訪ねる。

松島といえば、日本三景と讃えられるその景観が有名。もうひとつ、新しい名物として、美しき湾で獲れるマアナゴに注目が集まっている。小ぶりな魚体に驚くほどの旨みを秘める。

260余りの小島からなる松島湾。その名の由来でもある松の木は近年、枯損が目立ってきた。海と陸の両面からの保全が急がれる。

260余りの小島からなる松島湾。その名の由来でもある松の木は近年、枯損が目立ってきた。海と陸の両面からの保全が急がれる。

鏡のように静かな海に、松を戴いた無数の小島が浮かぶ。杉原崇さん(43歳)の漁場は、日本三景として天橋立(丹後)、宮島(安芸)に並ぶ名勝として知られた松島湾だ。松尾芭蕉ら多くの文人墨客が訪れた風光明媚な地で、今も東北を代表する観光地のひとつである。

籠を仕掛けるのは牡蠣棚近くの水深6~7mの海底。穴子と呼ばれるように、昼は砂泥の穴の中に潜み、夜、餌を求めて徘徊する。

籠を仕掛けるのは牡蠣棚近くの水深6~7mの海底。穴子と呼ばれるように、昼は砂泥の穴の中に潜み、夜、餌を求めて徘徊する。

「このすばらしい景色を朝夕眺めながら、ずっと仕事をしてきました。穴子は夜に活動する魚なので、夕方に籠式のわなを仕掛けます。秋刀魚の切り身をひとつずつ入れながら、全部で250ある籠を沈め、翌朝に引き上げます。
籠に穴子が入っていると、その重みと、ごとごとと暴れる感覚が綱越しに手へ伝わり、なんとも楽しいものです。蝦蛄や渡蟹もよく入ります。この感触を味わいたくて海に出ているようなものです」

多いときは100尾以上の穴子が獲れ、ひと籠に3尾、4尾入ることもある。父親の後を継いで漁を始めた20年以上前は、今よりもっと水揚げがあったそうだ。

松島湾の穴子(マアナゴ)は春から秋が漁期。旬は脂の乗る7月から9月だ。杉原さんは開いた穴子の直売もする。e杉原功商店?022・354・2319

松島湾の穴子(マアナゴ)は春から秋が漁期。旬は脂の乗る7月から9月だ。杉原さんは開いた穴子の直売もする。問い合わせ:杉原功商店 Tel.022・354・2319

雨の濁り水が入ったときや潮の動きの速い大潮のときは籠に入りにくい。一方、よく入る日には法則性がなく「それが面白い」という。

雨の濁り水が入ったときや潮の動きの速い大潮のときは籠に入りにくい。一方、よく入る日には法則性がなく「それが面白い」という。

戦前の松島は釣りの名所としても知られた。『釣技百科』(松崎明治著・昭和17年朝日新聞社刊)という本によると、ゴカイ(餌)を木綿糸に通して撚り合わせただけの、鉤のない仕掛けで船から穴子を狙う「ハモくくし夜釣り」という珍しい遊漁もあった。

「松島湾の穴子は種類としてはマアナゴです。地元では昔から穴子のことをハモと呼ぶんですが、県外のお客さんが増えるようになって、本物のハモと勘違いする人も出てきました。説明が面倒なので外向けには穴子と言い換えていますが、地元の人どうしでは今もハモと呼び合います」

夏の松島の新名物「穴子丼」

昔は庶民の惣菜魚だったそうだ。松島の穴子は平均するとやや小ぶりで、ちょうど1尾付けによい大きさ。小さなぶん味が繊細で、舌ざわりもなめらかだ。この魅力を観光に活かさない手はないと、飲食店などが連携、穴子丼を新たな松島名物にしようという運動が始まったのが10年ほど前だ。

穴子丼は冬の牡蠣に並ぶ夏の松島の味として定着。資源保護のための話し合いも始まったときに起きたのが、東日本大震災だった。

津波で牡蠣小屋や船を流され、廃業してしまった漁師は少なくない。杉原さんたち中堅世代は、なんとか松島湾の漁業を未来につなごうとがんばってきた。

「漁師を減らしたのは津波ではないんですよ。環境の悪化です。だんだん魚が獲れなくなって海に出る意欲がなくなっていた。そこへ大地震が追い打ちをかけた。津波は漁師をやめる原因ではなくて、きっかけだったんです。これから私たちがやらなければならないこと。それは津波で消えたアマモなどの藻場を復活させ、湾の水質もきれいにし、親父たちの時代のように豊かな海を取り戻すことです」

近年はどの産地も穴子の水揚げが減っている。一方、食べる側の人気は上昇しており、穴子は高級魚の道をひた進んでいる。

「単価は上がっていくのかもしれませんが、漁師の喜びってそこじゃないと思うんですよ。多くの人に手ごろな値段で喜んで食べてもらえることが一番じゃないのかな。少ししか獲れないけれど値がいいのと、単価はそこそこでたくさん獲れるのとではどちらがいいかと聞かれたら、私はたくさん獲れるほうを選びますね」

おっ、これは入っている、この手ごたえが堪らないんですよと相好を崩しながら、杉原さんは綱を引く手に力を込める。

松島の穴子は、やや甘めの味で煮ると、繊細な魅力が引き立つという。『さんとり茶屋』では醤油と酒に上白糖、ざらめ、黒砂糖の3種類の砂糖を入れることでコクを加えている。

松島の穴子は、やや甘めの味で煮ると、繊細な魅力が引き立つという。『さんとり茶屋』では醤油と酒に上白糖、ざらめ、黒砂糖の3種類の砂糖を入れることでコクを加えている。煮穴子丼(松島あなご丼)は1日20食限定。税込み1730円。

【松島の穴子を味わう】
 味処 さんとり茶屋(宮城郡松島町)
■住所:宮城県宮城郡松島町松島字仙随24‐4‐1
■電話:022・353・2622
■営業時間:11時30分~15時、17時~21時
■定休日:水曜(祝日の場合は翌日) 座敷26席。
JR東北本線松島駅から、徒歩約20分。JR仙石線松島海岸駅からは徒歩約10分。

松島では15軒の飲食店が独自の工夫と味付けによる穴子丼を提供している(9月頃まで)。
問い合わせ:松島観光協会 電話022・354・2618

宮城県沿岸部の観光と食を訪ねるテレビ番組が放映中!
「中村雅俊が行く 伊達な海道紀行」
TBSテレビ(関東ローカル)、毎週火曜よる10:54~
毎日放送(関西ローカル)、9月3日より毎週土曜夕方6:56~

取材・文/鹿熊 勤 撮影/宮地 工

提供/宮城県

sarai_skyjourney