蕎麦が健康に良い食べ物であることは、江戸時代から知られていて、元禄10年(1697)に発行された『本朝食鑑』には、蕎麦の健康効果が、次のように記されている。

・蕎麦を食べると、気分が穏やかになり、食欲がわく。
・蕎麦は胃の働きを活発にし、腸をしっかりさせ、便通を良くする。
・蕎麦湯を飲むと、良い効果がある。

これらのことは、現代の科学で、きちんと説明できる事実なのだが、まだ科学が未発達の時代に、なぜ、このようなことがわかっていたのか、不思議な気がする。

しかし昔の、生活に根ざした言い伝えは、実は意外に合理的で、現代の科学で裏付けできる、正しいものが多いのだ。

それはなぜかというと、言い伝えというものは、親、子、孫と、何世代にもわたって先人たちが試行錯誤を繰り返し、何度も何度も失敗して、その中から少しずつわかってきた正解の積み重ねだからだ。

つまり何世代にもわたって「実験」が繰り返され、失敗を積み重ねた中から発見された正解の集積が、言い伝えであり、あるいは伝統食文化であるということができるのだ。

もちろん、迷信に類するようなこともないわけではないが、正しい答えである場合が少なくない。

『本朝食鑑』に書かれている事柄も、そのような歴史に裏打ちされた知識が中心となっている。

栄養バランスの点からいえば、蕎麦を食べれば、体の中で不足している栄養素が補填されるという効果が期待できる。

ただし、いくら健康に良い蕎麦であっても、食べ過ぎると肥満になるので、過食を慎むことが重要である。

食べて健康が保たれるのと同時に、体を動かして蕎麦を打つという作業が、適度な運動となり、これも健康に良い効果をもたらす。

しばらく前まで私は、原因不明の腰痛に悩まされていたのだが、意識して蕎麦打ちをするようになってから、腰痛は少しずつ改善され、今ではほとんど気にならなくなっている。

蕎麦打ちをする前には、必ず全身のストレッチを行うが、これも固くなった体をほぐし、腰痛の改善には効果があったようだ。

蕎麦は、打っても、食べても、健康というかけがえのない宝物を届けてくれる、心優しき隣人なのである。

文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。

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