文・写真/秋山都

一般に酒が飲める人を「左党」、酒を飲めずに甘いもの好きな人を「右党」という。このふたつは政敵のようなもので互いに相容れず、酒好きな人は甘いものは食べないし、甘いもの好きな人は酒を飲まないのだ……と長年思いこんできた。この『和菓子 薫風』に出会うまでは。

東京メトロ千代田線「千駄木」駅より徒歩2分。大通りより1本入った路地に佇む『和菓子 薫風』。

緑色の扉を見ただけでは、ここが何屋なのかよくわからない。「和菓子」と店名にあるものの、ショーケースもないようだ。

そっと覗きこんでびっくり。羊羹やどら焼きなど和菓子を肴に日本酒を飲んでいるではないか。そう、ここは和菓子をつまみに酒を供する、超ユニークな和菓子店なのである。

和菓子は季節の食材を使いながら日替わりで5~6種ほど。メニューはないが、店主のつくださちこさんが口頭で説明してくれるので、それを聞いて想像を膨らませながらチョイス。「お酒も一緒に」といえば、つくださんがその和菓子にあった酒を選び、トクトクと注いでくれるのだ。

和菓子と酒があうのか? そろそろ、そうお聞きになりたいタイミングだろう。私も疑わしく思っていた。ウイスキーとチョコレートや、シャンパンとイチゴは見たことがあるが、アンコと酒? 口の中がベタベタしそうだけれど……。

店主のつくださちこさんはバイオメーカーの技術者から一念発起して和菓子の世界へ飛び込んだ変わり種。2012年にこの店をオープンさせた。

「和食のコースのデザートに生菓子と大吟醸を出したり、和菓子と酒の組み合わせは以前からあるんです。ただ、その組み合わせのためのメソッドは私のオリジナルですね」と語る店主のつくださちこさん。

そのメソッドとは和菓子の香・酸・甘・旨・苦の五味に対し、日本酒の要素を拾っていくという作業だ。

たとえば、瀬戸内レモンのコンフィチュール(果実を煮詰めたジャム)を使った名物「レモンどら焼き」には、無濾過生原酒のほろ苦さが特徴の日本酒『英君』(静岡県)が供された。

テイクアウトにも人気の高い「レモンどら焼き」は餡、皮、餅にいたるまですべて店内で手作りされている。他のフルーツどら焼きも人気。

また、コリアンダーシードやカルダモンなどスパイスと、クランベリーやワイルドベリーなどの果実をふんだんに使った「白い羊羹」には、その香りとフルーティな甘みに合う『たかちよピンクラベル』(新潟県)をチョイス。

スパイスとフルーツの甘味が特徴の「白い羊羹」。

実際口にしてみると、レモンの皮のほろ苦さが酒でふわりとコーティングされたり、菓子の甘みを酒のほのかな酸味が引き立たせたりと、それぞれ単体で口に含んだときより豊かな風味が花開くことに驚く。「酒飲みは甘いものが苦手」という固定観念もほろ酔いとともにほどけていくひと時だ。

和菓子と酒はどれもひとつと1杯(90ml見当)それぞれ540円(税込み)。和菓子ひとつあてに2杯(つまり1合)飲むのがおすすめのペースだ。

現在は40種程度の酒を常備し、8割以上のお客が酒をオーダーするというから、この左党と右党を自在に往来する超党派が意外にも多くて驚くが、極右の(つまりまったく飲めない)人でも大丈夫。おいしい、本格的な中国茶が用意されているのでご安心を。

【和菓子 薫風】
■住所/東京都文京区千駄木2-24-5
■アクセス/東京メトロ千代田線「千駄木」駅徒歩2分
■電話/03-3824-3131
■営業時間/水曜~金曜は13:30~20:00、土曜・日曜・祝日は13:30~19:00
■定休日/月曜・火曜、土日に不定休あり

文・写真/秋山都
編集者・ライター。元『東京カレンダー』編集長。おいしいものと酒をこよなく愛し、主に“東京の右半分”をフィールドにコンテンツを発信。谷中・根津・千駄木の地域メディアであるrojiroji(ロジロジ)主宰。

 

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