文・写真/馬場吉成

蕎麦やうどんを食べる際には、今では醤油や砂糖、味醂などを使って作るつゆで食べるのが普通です。しかし、醤油を使った麺つゆが普及する江戸中期頃までは、蕎麦もうどんも味噌から作る汁で食べるのが一般的でした。

それが、味噌を煮詰めて作る「煮貫(にぬき)」です。

煮貫の材料は、水と味噌と鰹節。江戸初期に書かれた料理本『料理物語』には「味噌五合、水一升五合、かつほ二ふし入れせんじ、ふくろに入れた候、汲返し汲返三辺こしてよし」と記述があります。

つまり、味噌を3倍ぐらいの水で溶かして鰹節を入れ、煮て漉せば出来上がりです。

実際に作ってみると、鰹の香りと旨みによって醤油からつくられる麺つゆと似たところもありますが、後味にふんわりと味噌の風味を感じる独特の味わい。当たりが柔らかく、滋味深い何度でも味わいたくなる旨さです。

作るのが面倒という場合は、今でも市販品が販売されています。

銀座三河屋の「煮ぬき汁」

市販の煮貫は濃縮タイプが多く、三河屋の「煮ぬき汁」も2倍に薄めて使います。自分で作るよりも味噌の風味が濃い目の物が多いようです。

自家製となるとかなりの量の味噌や鰹節を使うので、麺つゆとしては結構な高級品となってしまいます。市販品も、一般的な醤油を使った麺つゆよりも割高ではありますが、手軽に江戸の味を楽しむことが出来ます。

自らが再現するも良し。市販品を買って来るも良し。是非味わってもらいたい逸品です。

*  *  *

この煮貫は麺つゆとしてだけではなく、煮魚や炒め物の味付けとしても使えます。そこで筆者オススメの煮貫料理を紹介しましょう。煮貫でサッと煮て作る「煮貫豆腐」です。

用意するのは以下の材料です。

・煮貫:300ml(三河屋の煮ぬき汁なら、煮ぬき汁100mlに水200ml)
・豆腐:1/2丁(絹でも木綿でも可)
・すりおろし生姜:小さじ1~2杯程度

まず豆腐を1cm程度の厚みに切り分けて鍋に入れます。

鍋に煮貫を入れます。分量では300mlとしていますが、豆腐が浸る程度の量であればいいので、鍋のサイズに合わせて増減してください。

おろし生姜を入れたら火にかけて煮ます。煮立ってきたら弱火にして更に煮ます。

10分ほど煮たら出来上がりです。皿に盛ってお好みで小ねぎを散らします。

煮貫の味噌の甘味や旨味が豆腐を包み、ご飯にも酒にもよく合う味になります。鰹節の香りも穏やかに広がり、普通の味噌で煮たものでは出せない味があります。

煮て直ぐに食べられますが、煮汁に入れたまま冷蔵庫で一晩置くのもオススメ。豆腐により味がしみ込み味わいが深くなります。

味噌とダシの風味が濃いので、スッキリとした甘味と切れのある日本酒と合わせるか、旨味の強い日本酒の燗と共に味わうのがオススメです。

埼玉県入間郡茂呂山町の浅原酒造の『琵琶のささ浪 純米無濾過 生中取り』と合わせてみました。味噌の風味とよく合います。ぜひ試してみてください!

文・写真/馬場吉成
webライター。日本酒、料理、マラソン、工学関係など幅広い分野で多数の記事を企画、執筆。日本酒と発酵食品を使った酒の肴をメインにした飲み屋も経営しています。「酒と醸し料理BY」http://kamoshi-by.tokyo/ ライターページ http://by-w.info/

 

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