文・写真/秋山都

数十年前の台風の夜、「今日はもう缶詰にしちゃいましょうか」と母が言いだし、牛肉の大和煮かなにかと一緒にコンビーフが食卓に並んだことがあった。雨戸をたたきつける風雨の音とテーブルの上の非日常的なラインナップに、妙にワクワクした。

はたまた、週末の昼食のサンドイッチに使おうとした缶を自分で開けると言い張り、母がやめろというのに幼い手つきでクルクルあけようとし、途中で切れてしまったこともあったっけ。

コンビーフはおいしくて、どこか懐かしい、郷愁の味がする。

コンビーフといえば、ながらくノザキの占有市場だったようだが、ここ数年来の肉ブームにより、種々のブランドコンビーフが生まれてきた。今回ご紹介する『千駄木腰塚(せんだぎこしづか)』のコンビーフもそのひとつだ。

町のお肉屋さんといった風情だが、名物のハム、コンビーフを求めて遠方よりお客が押し寄せる。週末は行列することも。

町のお肉屋さんといった風情だが、名物のハム、コンビーフを求めて遠方よりお客が押し寄せる。

コンビーフ400グラム1500円(本店価格)。3月17日に1650円に値上げされるので今がチャンス。週末の午後には売り切れることも多い。

コンビーフ400グラム1650円(3月17日~本店価格)。週末の午後には売り切れることも多い。

『千駄木腰塚』は昭和24年創業。小売店と食肉の仲卸を兼ねているため、良質な肉を安価に販売してきた。和牛のブランドがそれほど珍重されていなかった時代にいち早く松阪牛や前沢牛に目をつけ、小売販売した1号店だという。いわば和牛ブームの先駆者だ。

またハム・ソーセージなどの加工品製造も昭和30年代にはスタート。他店がポテトサラダやコロッケを販売しているころにすでに自社製ハムやサラミ、ボローニャソーセージなどのシャルキュトリー(食肉加工品)を販売していた変わりダネでもある。

コンビーフは2002年に販売開始。豪州産ビーフのブリスケ(肩バラ)を塩漬けし、茹で、手でほぐしたものに、国産牛の乳脂(牛脂のなかでも上質で甘い)をまぶしていく。

味付けは塩と、ほんの少しのウマミ調味料。添加物は極力控え、すべての工程を手で行う丁寧なつくりだ。

パッケージを開けて驚くのはその肉の繊維の長さ。そして食べて驚くのは肉の旨みと脂の甘みだ。これを一番おいしく食べるには、あたたかい炊き立てごはんにのっける「コンビーフごはん」がおすすめ。

これをまずは白いごはんにコンビーフだけで一口いっていただきたい。

これが一押しの食べ方「コンビーフごはん」だ!

これが一押しの食べ方「コンビーフごはん」

和牛の脂の融点は低いので、ごはんにのせた時点で、コンビーフはホロリと溶けかかっている。そこをすかさず一口。うまい!と膝を叩きたくなること間違いなし。お好みでわさび醤油や生卵、マヨネーズを加えてどうぞ。

我が家では開封したらまず炊きたてごはんにのせて味わい、次にマヨネーズで和えてポテトサラダに入れたり、サンドイッチにしたり。最後に乾き気味になった部分をチャーハンにして味わい尽くす、「コンビーフの三段活用」を楽しんでいる。

もちろん定番のサンドイッチも悪くない。マヨネーズで和えて、玉ねぎやキュウリなどお好みの野菜を添えて。

定番のサンドイッチ。マヨネーズで和えて、玉ねぎやキュウリなどお好みの野菜を添えて。

開封してしばらく経ってしまい、少し乾燥気味になったらコンビーフチャーハンはいかが。

開封してしばらく経ってしまい、少し乾燥気味になったらコンビーフチャーハンがおすすめ。

このコンビーフ、テレビなどでもよく紹介されており、しばしば売り切れてしまうのが玉にキズ。谷根千(谷中・根津・千駄木)散策の折には早めに訪れ、購入し、お店でキープしておいてもらうことをおすすめする。

【千駄木腰塚】
所在地/東京都文京区千駄木3-43-11
■アクセス/東京メトロ千代田線「千駄木」駅下車徒歩5分
■電話/03-3823-0202
■営業時間/10:00~19:00
■定休日/水曜
http://www.koshizuka.jp/
*本店のほか、エキュート日暮里店、北千住マルイ(2017年3月17日オープン)でも入手可能(価格は店舗によって異なります)

文・写真/秋山都
編集者・ライター。元『東京カレンダー』編集長。おいしいものと酒をこよなく愛し、主に“東京の右半分”をフィールドにコンテンツを発信。谷中・根津・千駄木の地域メディアであるrojiroji(ロジロジ)主宰。

 

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