鶏レバーのピュアな旨味に悩殺される!浅草『菜苑本館』の「純レバ」【大人の東京実用グルメ5】

純レバ(アップ)_s

文・写真/鈴木隆祐

B級グルメは決してA級の下降線にはない。それはそれで独自の価値あるものだ。酸いも甘いも噛み分けたサライ世代にとって馴染み深い、タフにして美味な大衆の味を「実用グルメ」と再定義し、あらゆる方角から扱っていきたい。

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浅草はかつて東京最大の盛り場だった。戦後、東京西部に人口の移動と流入があったため、その座を新宿・渋谷・池袋という副都心に奪われたが、最近はインバウンド外国人が大挙して押しかけており、再び賑わいを取り戻している。

もっとも、その喧噪も駅近辺から花やしきにかけて。そこから言問通りを横断した先の吉原に続くエリア、千束通り商店街には、古きよき浅草の暮らしが今なお残っている。僕はこの辺りを「裏原宿」にかけて「裏浅草」と勝手に名づけ、けっこう通い詰めている。

1,200mに及ぶその商店街の入り口に、浅草でも名物に数えられる「純レバ」を出す『菜苑本店』がある。この純レバ、江東区の砂町銀座の「銀座ホール」が元祖との説もあるが、やはりこちらを本家としておきたい。

他にも純レバは、錦糸町の『菜苑支店』(ドラマ版『孤独のグルメ』に取り上げられたのはこちら)、浅草駅近のすしや通りの『あづま』(本店店主の弟が経営)といった、同店の系列店の看板メニューにもなっている。

菜苑

「いらっしゃいませ」と染め抜かれた独特の暖簾をくぐると、街場中華のワンダーランドが展開する。

菜苑(内観)_s

今では娘さんも厨房で威勢よく鍋を振るう。ともかく昼夜別なくひっきりなしに客が来るため、水やビール、おしぼりはセルフサービスなので要注意。

奇怪なメニューのネーミングに主人の遊び心が偲ばれる。「あれ」とは鶏から揚げのチリソースがけのことで、これまたビールの当てに向く。

奇怪なメニューのネーミングに主人の遊び心が偲ばれる。「あれ」とは鶏から揚げのチリソースがけのことで、これまたビールの当てに向く。

純レバを一言で言えば、焼き鳥のレバーを甘辛く炒めててんこ盛りにし、ねぎをふんだんに載せた代物。これが飯の上にかかると、純レバ丼となる。たまに食べると、よくぞこんな珍味を発明したなーと感心する。

しかし、なんでまた“純レバ”なのか? 聞くと「ニラレバみたいにニラが入ってなく、純粋にレバーだけだから」とのこと。

ニラレバには豚レバーがお定まりだが、レバーだけを堪能するにはやはり鶏レバーがいい。そのほっこりとした旨味を引き出すには甘辛煮が王道の食し方だが、純レバもたれの甘じょっぱさが共通している。

そして、甘辛煮では生姜を効かすが、純レバではニンニクが前面に出る。さらに鷹の爪のピリリとした辛味が否応なしに食欲を刺激する。

細かくカットされたレバーはいったん素揚げされ、充分に火が回っており、臭みを吹き飛ばしつつ、独特の香りは残している。そこへネギの歯触りと香味が上手くサポートする。

純レバは時々思い出したように食べたくなる、中毒性の高いメニュー。今や丼で1100円(ランチなら800円)、単品でも800円するが、その価値は充分ある栄養満点の珍味だ。

純レバは時々思い出したように食べたくなる、中毒性の高いメニュー。今や丼で1100円(ランチなら800円)、単品でも800円するが、その価値は充分ある栄養満点の珍味だ。

この純レバを食べると米が欲しくなるが、ぐっとこらえて純粋に純レバを味わうことにする。注文した大瓶ビールは瞬く間に空になった。これがレモンサワーにはもっと合う。

焼鳥屋で頼むと、せいぜい1〜2本で飽きてしまうレバーなのに、どうしてこうも箸が止まらないのだろう。要は辛味とネギとのアンサンブルが見事なのだ。鶏レバーに苦手意識を持った人でも、純レバならすんなりと食べられることだろう。

鶏レバーは豚・牛に較べてもカロリー、コレステロール値ともに低いので、量を食べてもそんなに心配はない。鉄分も、皮膚や粘膜を健康に保つビタミンAも、たんぱく質の代謝に不可欠なビタミンB6、葉酸と協力して赤血球中のヘモグロビン生成を助けるB12も多く含まれているし、亜鉛によるデトックス(解毒)効果も認められている。つまり純レバは、実は相当なアンチエイジング食でもあるのである。

『菜苑本館』は、素ラーメンの下に角切り焼豚が潜る「DXラーメン」や、チャーハン版天津丼の「たまごっち」などユニークメニューの宝庫なのだが、他が霞んでしまうくらい、やはり純レバの圧倒的存在感が際立っている。

浅草に来たらまずは「純レバ」でしっかり滋養をつけてから、さらなる庶民の味が息づく裏浅草を精力的に食べ巡ってもらいたい。

他にカニ湯麺にとんかつと、3つの看板メニューを押し出すが、客の大半はまず純レバをオーダー。レモンサワーの友に打ってつけで、瞬時に平らげてしまった。

『菜苑本館』では他にもカニ湯麺にとんかつと、3つの看板メニューを押し出しているが、客の大半はまず「純レバ」をオーダーする。レモンサワーとの相性抜群で、合わせて食べると瞬時に平らげてしまう。

【味の工房 菜苑 本店】
■住所/東京都台東区浅草3-10-6
■アクセス/東京メトロ 入谷駅 徒歩約10分 浅草駅 約徒歩15分、つくばエキスプレス 浅草駅 徒歩約5分
■営業時間:月~金は11:55~14:00と17:00~翌3:00、土・日・祝は11:30~15:00と17:00~翌3:00

文/鈴木隆祐
1966年生まれ。著述家。教育・ビジネスをフィールドに『名門中学 最高の授業』『全国創業者列伝』ほか著書多数。食べ歩きはライフワークで、『東京B級グルメ放浪記』『愛しの街場中華』『東京実用食堂』などの著書がある。

写真/鈴木隆祐+田中恵

【参考図書】
『東京実用食堂』
(鈴木隆祐・著、本体1300円+税、日本文芸社)
http://www.nihonbungeisha.co.jp/books/pages/ISBN978-4-537-26157-8.html

ISBN978-4-537-26157-8